「クイーン」と改名し、アルバムを自主制作したバンドは、レコーディングの様子を目撃したEMIのA&R、ジョン・リード(エイダン・ギレン)にスカウトされ、1974年にはフレディが作詞・作曲した「キラー・クイーン」が大ヒット。EMIの重役はこのヒット曲路線での作曲を命じるが、バンドは同じことの繰り返しを嫌い、フレディはオペラを取り入れたロックの制作を思いつく。
やがてフレディが仲間たちと完成させた斬新な構成の「ボヘミアン・ラプソディ」は6分の長尺で、重役連中は「長すぎてラジオで流せない」と猛反発。怒りのフレディはラジオ番組にゲリラ的に出演し楽曲を届け、マスコミには叩かれたものの新たな大ヒットを勝ち取る。
こうした楽曲の誕生秘話が、メンバーが制作に没頭する姿やぶつかり合う様子と共に描かれている。このリアルな過程の描写は、ブライアン&ロジャー本人が音楽プロデューサーとして本作の製作に参加していることも大きいだろう。
■孤独と苦悩に苦しむフレディを救ったもの
クイーンがスターダムを駆け上り、ツアーで多忙を極めるなか、フレディの苦悩を深まっていく。ゲイである自分とは異なり、家族を持ち、子どもたちを愛する他のメンバーとの溝は広がり、半ば一方的にソロ活動を始めるも楽曲作りは難航。バンド初期に出会い恋に落ちた女性メアリー(ルーシー・ボーイントン)には、自分がバイセクシュアルであることを告白するが、「あなたはゲイよ」とはっきりと指摘される。
その後もフレディにとって大切な人であることは変わらぬものの、彼女が他の男と付き合うのを見るのは寂しい。そんな折、心から愛せる相手ジム・ハットン(アーロン・マカスカー)と出会うが、「君が本当の自分を取り戻すことができたらその時また会おう」と告げられてしまう。孤独に苦しむフレディは酒に溺れ、ドラッグに蝕まれていく。
だが、「そんなことではだめ、あなたの本当の居場所はクイーンで、メンバーこそがファミリー」とメアリーはフレディを励ます。恋は途切れても、彼女にとってもフレディは大切な人。そんな思いをくみ取り、交際相手の子どもを授かったメアリーを祝福するフレディの姿に希望を感じさせられる。
この結果、クイーンへの復帰を熱望したフレディは不満を募らせていた仲間を説得。再び迎え入れてくれた仲間たちとライヴ・エイドのステージに立つ。そんなドラマを見ていると、自分がクイーンを好きだったことを懐かしく思い返してしまう。
文=渡辺祥子
渡辺祥子●1941年生まれ。好きな映画のジャンルはサスペンス&ミステリー。最近気に入っている『ホイットニー・ヒューストン IWANNA DANCE WITH SOMEBODY』の脚本家は「ボヘミアン・ラプソディ」と同じアンソニー・マクカーテン。曲の聞かせ方が巧くてつい引き込まれる。日本経済新聞、週刊朝日、ぴあなどで映画評を執筆。
放送情報
ボヘミアン・ラプソディ
放送日時:2023年1月7日(土)21:00~、13日(金)21:00~
(吹)ボヘミアン・ラプソディ
放送日時:2023年1月13日(金)12:30~
チャンネル:ザ・シネマ
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