歪んだ差別意識や上辺だけのリベラルをあぶり出す...ジョーダン・ピール監督作品『ゲット・アウト』から見る秀逸なブラックユーモアのセンス

自分以外の黒人に対してもどこか異様さを感じるクリス
自分以外の黒人に対してもどこか異様さを感じるクリス

(c) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.

ピールの本作における立ち回りも、それと似たケースにある。黒人差別をサイコホラーへと発展させた挑発的な作品を、白人サイドから創造するのはレイシストの所業だと炎上を招きかねない。だが、ピール監督は自らの立場やルーツにしたがって作品に取り組み、リスキーな題材に遠慮や忖度なく踏み込んでいく。そうすることでこの映画は、過去にない視点と切り口を持ったサスペンスに仕上がった。そして人種問題を遠慮なく俎上に乗せながら、返す刀で鼻持ちならないリベラリストにも制裁の斬り込みを加えるという、ブラックなコメディセンスさえも存分に発揮しているのだ。

そう、この『ゲット・アウト』には、差別を悪いこととして認識する犯罪者が1人も登場しないところに恐怖の根幹がある。同作を構成する白人たちは、異人種に対する歪んだ尊崇の念が自身を凶行へと向かわせていく。つまり、無自覚な差別は自覚的なそれより悪質だと、物語は見せかけだけのリベラルな姿勢にもアンチな姿勢を示してほかならない。

(c) 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.
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人種差別をベースにサイコホラーを作り上げたジョーダン・ピール監督に今後も要注目!

アメリカ社会に依然として横たわる問題を異質なストーリーと設定で顕在させ、同時に飛躍した邪意の存在を信じさせるに十分な演出力で、エンターテインメントとしての足場を崩さないピール監督の躍進は、今後のハリウッド映画をまだまだ楽しく、そして文化的に興味深いものにしてくれそうだ。

文=尾崎一男

尾崎一男●映画評論家、ライター。「フィギュア王」「チャンピオン RED」「キネマ旬報」「映画秘宝」「熱風」「映画.com」「ザ・シネマ」「シネモア」「クランクイン!」などに数多くの解説や論考を寄稿。映画史、技術系に強いリドリー・スコット第一主義者。「ドリー・尾崎」の名義でシネマ芸人ユニット[映画ガチンコ兄弟]を組み、配信プログラムやトークイベントにも出演。

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放送情報

ゲット・アウト
放送日時:2023年4月1日(土)8:00~、18日(火)18:30~
チャンネル:スターチャンネル1

(吹)ゲット・アウト
放送日時:2023年4月5日(水)16:40~、14日(金)8:00~
チャンネル:スターチャンネル3

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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