尖っていて、痛々しくて、でも妙に心に残る...『TITANE/チタン』『アネット』などカンヌ国際映画祭受賞作を宇垣美里が振り返る
- 韓流・海外スター
- 2023.04.28
■心かき乱されるような、価値観を揺るがされるような作品たち
カンヌ国際映画祭。是枝裕和監督『万引き家族』(2018年)のパルム・ドール獲得や、当時14歳の柳楽優弥が『誰も知らない』(2004年)で男優賞を受賞したことでご存じの方も多いだろう。新作映画の売買が行われ、約800社が参加するカンヌ・フィルム・マーケットも同時開催されることから、世界三大映画祭の中でも最も世界的な注目度が高いと言われている。
カンヌの受賞作品が持つ特徴は、独自性や商業性。映画作品としてのクオリティの高さはもちろんのこと、革新を求めるからこそ、エンターテインメント性以上に、難解ながらも芸術性に溢れた作品を評価する傾向にある。観てスカッとする、心温まる、というよりは、心かき乱されるような、価値観を揺るがされるような。なんだかすごいものを観てしまった...とクラクラと衝撃を受けるようなものも。そんなカンヌ国際映画祭から一昨年、第74回の受賞作をいくつかご紹介しよう。
最優秀作品に贈られるパルム・ドールを獲得した作品は『TITANE/チタン』(2021年)。フランスの監督ジュリア・デュクルノーの長編第2作だ。
幼少時、交通事故に遭い、頭蓋骨にチタンプレートが埋め込まれたアレクシア(アガト・ルセル)は、それ以来「車」に対して異常な執着心を抱き、危険な衝動に駆られるようになる。やがて自らの犯した罪からの逃亡生活の末、息子が行方不明で孤独な中年男性のヴィンセント(ヴァンサン・ランドン)と出会う。
とにかく強烈なシーンの連続で、特にリアルな痛みの描写はなんとなくその痛みが想像できてしまうため、思わず呻いてしまったほど。なんかもうずっと痛かった。あまりに暴力的かつ奇妙な主人公の行動と、独創的でいて狂気的な展開から最後まで目が離せない。官能的で血みどろな冒頭から一転、終盤こんなに心を揺さぶられることになるなんて。
特に女性は避けがたい心身の変化や押し付けられた女性らしさ、男性らしさへの反発、人間の心の柔らかいところで感じ続けざるを得ない、生きていくことの痛み、みたいなものをキレッキレのセンスで掬い上げ、見せつけるような作品だった。この凄まじい作品に最優秀作品賞を授与するカンヌ、やっぱりすごい。
グランプリに輝いたのは『英雄の証明』(2021年)。監督は米アカデミー賞の外国語映画賞を二度受賞したイランの監督、アスガー・ファルハディ。
借金を返せず服役しているラヒム(アミール・ジャディディ)。仮釈放中のある日、婚約者が偶然金貨を拾い、それを借金の返済に充てようとするものの、罪悪感に苛まれ、落とし主に返すことを決意する。そのささやかな善行がメディアに報じられたことでラヒムは一気に時の人となる。
意図せずに作り上げられた英雄像が些細なきっかけで崩れ落ち、ネットとメディアに翻弄されるままに運命が狂っていく様子の恐ろしさたるや。イラン映画ながら身近な内容に感じ、絶望感にげっそりしてしまうのは、やはりこのSNS時代、噂程度の情報から暴走した民衆によって誹謗中傷が起こるというのは日本でもよくある話であるからこそ。
人は善悪どちらかではなく、その間をたゆたい数多の面を持つ曖昧なもの。ずるいところも善良なところも、どちらもたくさんある普通の男の一つの善行が、ちょっとした嘘が、彼を地獄へと追い詰める。その人生の不条理を含め、多面的で表裏一体な人間が、それでも大切にするべきものは何なのかを考えさせられた。
放送情報
アネット
放送日時:2023年5月18日(木)22:35~
わたしは最悪。
放送日時:2023年5月19日(金)23:00~
TITANE/チタン
放送日時:2023年5月24日(水)22:45~
英雄の証明(2021)
放送日時:2023年5月25日(木)22:45~
ニトラム/NITRAM
放送日時:2023年5月26日(金)23:15~
チャンネル:WOWOWシネマ
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