国境での被害甚大な戦争を経た、近未来のマイアミ。退役軍人のニック・バニスター(ヒュー・ジャックマン)は、戦時中の尋問装置を流用した記憶喚起マシンを使い、顧客に輝かしい思い出を追体験させるビジネス「レミニセンス(記憶潜入)」を営んでいる。それは現実逃避に絶大な効果を発揮するが、依存度が高く、利用者は記憶のループに陥り正気を失う危険性を孕んでいた。未来への希望は潰え、代わりに誰もが「過去」に救いを求めていたのだ。
■主人公を幻惑し、ドラマを先導していくファム・ファタールの存在
2021年公開の映画『レミニセンス』は、この終末的なディストピアを舞台に、謎に満ちた女性の行方を追うSFサスペンスだ。ある時、一人の女性がニックのもとを訪れる。メイ(レベッカ・ファーガソン)と名乗るそのクラブシンガーは、大事な鍵を無くし困惑していたのだ。装置をもってすれば行方はわかると、彼女の依頼に応えるニック。しかし探索の過程で、ステージに立つメイの歌声に郷愁を覚え、彼はこの女性に強く心を惹かれていく。
いつしか2人は親密な関係になるが、ある日、メイはニックの前から忽然と姿を消してしまう。いったい起因がどこにあったのか、彼はレミニセンスで必死になって探ろうとするも、同僚のワッツ(タンディ・ニュートン)からループに陥る危険性を警告されてしまう。
そんなレミニセンスは犯罪を調査し、解決するためにも用いられており、ニックは検事局に出入りしていた。そこで悪名高き麻薬王セント・ジョー(ダニエル・ウー)の取引実態を売人の記憶から引き出そうとした彼は、現場にメイの姿を視認し愕然とするのだ。
自身が心を奪われ、追い求めた女性は犯罪に関与していたのか?本作の監督であるリサ・ジョイは、幼いころに両親が出かけてしまうと、ベッドに潜り込んで古い映画を観ていたという。とりわけ魅了されたのが「ノワール映画」で、それは神話と同じように私に語りかけてきたのだと述懐している。
『レミニセンス』はそんな伝統的なノワール映画の概念を、彼女なりに再定義しようとする姿勢から生まれたものだ。同時にこのジャンルを代表する要素として知られる【ファム・ファタール】というキャラクター造型を踏まえることで、ノワール映画に対してあらん限りの忠誠心を見せている。主人公を幻惑し、ドラマを先導していく「悪女」の存在―。本作のメイもそんなファム・ファタールの役割を担い、ニックを幻惑し、そして物語が持つ暗黒の側面へと主人公を巻き込んでいく。
■ディストピアと化した世界で広がる持つ者と持たざる者の格差
放送情報
レミニセンス
放送日時:2023年7月8日(土)20:56~、9日(日)12:45~
チャンネル:ムービープラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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