■どんな役でも自分のモノにしてしまう俳優、ホアキン・フェニックス
全米を取材で飛び回るラジオジャーナリストが妹の息子を預かることになり、そこに生まれる甥っ子と伯父さんの心のつながりがたまらなくチャーミングな映画が誕生した。タイトルの『カモン カモン』(2021年)は「先へ 先へ」とでも言えばよいか。
『人生はビギナーズ』(2010年)では父親との、『20センチュリー・ウーマン』(2016年)では母親との関係を意識したドラマを作ってきたマイク・ミルズ監督が、自分が子育て中に体験したことの多くをホアキン・フェニックス演じるラジオジャーナリストのジョニーに投影させて生まれたのが『カモン カモン』。ホアキンは狂気の悪役を演じて絶賛された『ジョーカー』(2019年)でアカデミー賞主演男優賞を受賞したあと、次の出演作にこの温かくてチャーミングな『カモン カモン』を選んでいる。どんな役でも自分のモノにしてしまうのがホアキンだ。
アメリカ中を回って子どもたちにインタビューをするのが仕事。とはいえ、実際には子どもや家庭のことなど何も知らないジョニーは、ロサンゼルスに住む妹のヴィヴ(ギャビー・ホフマン)から別居中でオークランドに住む夫ポール(スクート・マクネイリー)の世話をするため9歳になる息子ジェシー(ウディ・ノーマン)を預かってほしいと頼まれて困惑する。ヴィヴとは認知症を患っていた母親が一年前に亡くなって以来疎遠になっていたのだが、こんな状況では断れない。ロサンゼルスを訪れてジェシーに会ったジョニーは、どこか風変わりに見えるジェシーに戸惑い、不安になる。うまく打ち解けることができるだろうか?でもほんの2,3日なら大丈夫。
ところが、ポールの具合が悪く、約束の日に帰れなくなったとヴィヴから連絡が入る。そうなるとジョニーだって仕事があるからいつまでもロサンゼルスにいるわけにはいかず、ジェシーを連れてニューヨークの自宅へ帰る。ここからがジョニーとジェシーの新しい生活の始まりだ。ジェシーに機材の使い方を教え、子どもたちへのインタビューにも同行させる。新しい世界との出会いを喜ぶジェシーだったが、その一方で、母を思い、ホームシックになる9歳の男の子がいる。じゃあ家に帰ろう、と航空券を買った時ジェシーがトイレに逃げ込んだ。慣れない環境に戸惑い、苦しむジェシーの繊細さに気づかなかったジョニー。今まで子どもを相手にインタビューをしてきたジョニーだが、インタビューをすることと日々の生活を共にすることは全く違う。この難問をクリアすることで、2人の間にこれまでになかった絆が生まれる。
映画が描くテーマはなんといっても大人と子どもの関係で、ジョニーとジェシーの関係が重要だ。ここで問題になるのが、ホアキンと子役ウディ・ノーマンの相性だった。
ホアキンといつか一緒に仕事をしてみたいと考えていたというミルズ監督。彼に脚本を送り、そのあとでランチを一緒に、となった時、ホアキンは「この映画はすごく面白そうだけど僕にはできない」と断られたそうだ。それでも脚本の面白さに惹かれたホアキンと繰り返し会い、お互いの考えや経験を出し合って脚本を一緒に練り上げていくうちに状況が変わり、ホアキン主演で撮影が開始した。
となると、次に決めねばならないのはジェシーを演じる子役だ。ホアキンとミルズ監督はジェシー役のノーマンとはオーディションの場が初対面だった。ノーマンは脚本に書かれていなかったことをアドリブで演じ、そこで彼が見せた芝居はホアキンと監督が考えてもみなかったことだった。アドリブに驚いた2人は顔を見合わせ、ジェシー役はその場でノーマンに決まった。
■モノクロ撮影が作品に与える効果
放送情報
カモン カモン
放送日時:2023年7月8日(土)7:00~、12日(水)1:05~
チャンネル:ムービープラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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