■オンリーワンの独創性に満ちあふれた恐怖映画
映画宣伝史における屈指の名キャッチコピー「決してひとりでは見ないでください」とともに公開され、日本でも大ヒットを記録した「サスペリア」(1977年)は、言わずと知れたホラー映画の古典的な傑作である。当時、監督のダリオ・アルジェントは、ジャーロと呼ばれるイタリア特有の猟奇スリラー&ミステリーのジャンルで成功を収めていたが、新境地を開くために「魔女」という神秘的な題材に取り組んだ。周知の通り、1970年代の映画界ではウィリアム・フリードキン監督の「エクソシスト」(1973年)をきっかけにオカルト・ブームが吹き荒れていたが、その末期に製作された「サスペリア」は「エクソシスト」の亜流作品ではないし、オカルト・ホラーの文脈で語られることもほとんどない。アルジェント監督が完成させたのは、他の作品と比較することさえ無意味に思えるほどオンリーワンの独創性に満ちあふれた恐怖映画だったのだ。
舞台となるのは、ドイツ・フライブルクの名門バレエ学校。その内外で不可解な変死事件が相次ぐなか、アメリカからやってきた新入生スージー・バニヨン(ジェシカ・ハーパー)の身にも得体の知れない脅威が迫るという物語である。すでに多くの批評家、研究家によって語り尽くされている本作について、今さら新たな発見や解釈を見出すことは難しい。それでも筆者は、今なお「サスペリア」が世界中で繰り返し鑑賞され、新たな世代のファンを獲得し続けている理由を指摘してみたいと思う。
まず先述した「オンリーワンの独創性」は、本編を観れば一目瞭然。ディズニー映画「白雪姫」(1937年)に触発されて原色の彩度を強調した映像美、ギリシャのブズーキやインドのシタールといった民族楽器をフィーチャーしたゴブリンの音楽など、いくつもの斬新な要素を挙げることができる。とりわけアルジェントの「建築物」への並々ならぬこだわりが反映されたセットの美術は圧巻で、赤やブルーの原色が配された幾何学模様の壁紙などがいちいち目に焼きつく。その過剰な視覚的インパクトたるや、何度観直しても凄まじい。
その半面、支離滅裂な印象を与える点も少なくない。例えば、盲目のピアニスト、ダニエルが愛犬のシェパードに噛み殺されるエピソード。真夜中の広場の空間演出や、カメラをワイヤーで吊して撮った超自然的視点のショットには思わず目を見張るが、冷静に考えるとダニエルが魔女たちに殺されなくてはならない明確な理由が見当たらない。また、アルジェントが刃物による殺人描写を得意とするジャーロ作家だという特性を踏まえても、魔女を題材にしたオカルト映画でナイフが凶器に使われるのはいかにも不自然だ。
放送情報【スカパー!】
サスペリア(1977)[HDリマスター版]
放送日時:2021年6月13日(日)19:00~、23日(水)1:00~
サスペリア(2018)
放送日時:2021年6月13日(日)21:00~、24日(木)1:15~
チャンネル:スターチャンネル1
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