ベトナム戦争帰還兵の独白を形式として描いた映画「タクシードライバー」(1976年)は、この枠で以前に取り上げた「グッドフェローズ」(1990年)の監督マーティン・スコセッシの初期代表作であり、ハリウッドメジャーの停滞と独立系若手作家の台頭という、1960年代後半から70年代中盤におけるアメリカ映画の変革を象徴する一本だ。
■孤独な主人公が凶行へと向かう様をバイオレンスに描写
疎外感を抱えた主人公、トラビスの妄執を名優ロバート・デ・ニーロがリアルに演じ、同時にタクシー運転手を生業とするキャラクターを経て、当時のニューヨーク・マンハッタンが放つ猥雑さと危険性を映し出し、作品は「都市映画」としての性質を併せ持つ。そして主人公がとった凶行を巡るメディアや大衆の恣意的な様を、凄惨なバイオレンス描写で浮き彫りにしていくのだ。
このように本作は多面的でコアとなる要素が多く、特定のジャンルに収まらない印象を受けるだろう。しかし、スコセッシはこの「タクシードライバー」を「ノワール(犯罪)映画」の系譜にあるものだと主張している。事実、主人公のナレーションによって、その時々の感情を詳述する同作の語り口は、1940~50年代に量産されたノワール映画のフォーマットを踏襲したものだ。
なによりトラビスはナンパした選挙ワーカーのべツィ(シビル・シェパード)に愛想を尽かされ、その執着を彼女が支援している大統領候補者の狙撃へと向かわせる。さらにそれが未遂に終わると、彼はターゲットを売春斡旋業者(ハーヴェイ・カイテル)に移し、この男のもとで働く未成年の売春婦アイリス(ジョディ・フォスター)の救出へと変転させていくのだ。
こうした物語の顛末と一人称ナレーションによる構成から、近年まで「タクシードライバー」は実際に大統領候補を狙撃した犯罪者の日記に触発された作品と伝えられてきた。その日記とは1972年5月15日、米メリーランド州ローレルで民主党の大統領候補ジョージ・ウォレスを撃ったアーサー・ブレマーが綴っていたもので、事件後に書籍化されて物議を醸している。そして映画の公開後、トラビスの行動描写とブレマーの日記にはいくつかの類似点があると、時に触れて本作は事件との関係を指摘されてきたのである。
■実際の事件との関連性も完全には無視できない独特な作品の立ち位置
放送情報【スカパー!】
タクシードライバー [4K修復版]
放送日時:2023年1月8日(日)15:30~、19日(木)0:30~
チャンネル:WOWOWプラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります