■成功者の2人が、落ち目の2人を演じた配役の妙
カウンターカルチャーが台頭した1960年代後半。ハリウッドは新興のテレビに押され、映画スターの身辺にも大きな変化が起きる。1969年、人気女優シャロン・テートがカルト指導者チャールズ・マンソンと彼を信仰する者たちに殺害された事件を通して当時のハリウッドを描いたこの映画には、クエンティン・タランティーノ監督の「オレ流」な演出で、変わりゆく映画界の光と影が映し出されている。
本作における象徴的な役回りが、時代の移り変わりに取り残され人気が低迷するハリウッドスターのリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と、彼の親友で付き人兼スタントマンのクリフ・ブース(ブラッド・ピット)。当代のスーパースターであるディカプリオが落ち目のスター役を、今やプロデュース業でも成功を収めるピットがスターの世話を焼く裏方役を演じており、そんな遊び心溢れるキャスティングはいかにもタランティーノ映画ならでは。
リックへのオファーは映画の主演からテレビドラマの悪役へと変わり、クリフに愚痴をこぼさずにいられない。やり手プロデューサーのマーヴィン(アル・パチーノ)にマカロニ・ウェスタンへの出演を誘われるも「なんでこの俺がイタリアへ都落ちしなくちゃならないんだ!」と憤慨する。だが、当時「ローハイド」に出演していたクリント・イーストウッドは、「ドル箱3部作」と呼ばれるマカロニ・ウェスタンに出演して映画作りのノウハウを学び、後に監督として成功を収めたのはご存じの通り。そのようなことをクリフは知る由もなく、屈辱を酒で紛らわす落日のスターをディカプリオが悔し涙をこぼしながら体現する。外で憚らず泣き顔を見せる相棒に「メキシコ人の前で涙を見せるな」とサングラスを掛けさせるリック。ピットのその気配りの演技も絶妙だ。
そんなリックの自宅近くで待ち構える取材陣。ところが取材陣が待っていたのは2人ではなく、リックの隣に越してきた注目カップル。「ローズマリーの赤ちゃん」(1968年)の大ヒットで一躍時の人になったロマン・ポランスキー監督と、「哀愁の花びら」(1967年)と「サイレンサー第4弾/破壊部隊」(1968年)で勢いに乗る美人女優シャロン・テート(マーゴット・ロビー)だ。隣り合う光と影の対比。ハリウッドの人々の新しい物好きを象徴する描写は、リックがムッとする姿すらますます哀愁を抱かせる。最近のハリウッドで大活躍のロビーが、シャロンの気の良い女の子ぶりを随所で表現しているのも目に留まる。
■男たちの紆余曲折の背景に滲む大事件への気配
放送情報【スカパー!】
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
放送日時:2021年6月19日(土)20:55~、20日(日)13:00~
サイレンサー第4弾/破壊部隊
放送日時:2021年6月16日(水)13:30~、20日(日)16:00~
映画監督:クエンティン・タランティーノ
放送日時:2021年6月20日(日)0:00~、22日(火)20:00~
チャンネル:ムービープラス
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