日本でも"バリラバー"と呼ばれる熱狂的な支持者を集めたドラマ「バリでの出来事」(2004年)でのブレイクから20年が経ち、じきに40代半ばを迎えるチョ・インソン。年齢を重ねたからこその成熟した大人な魅力を武器に、近年も注目作に立て続けに出演している。"2023年最高の韓国ドラマ"と称された「ムービング」(2023年)で待望のドラマ復帰を果たすと、かつて国家の工作員だった超能力者を演じ、苦悩や葛藤を汲み取った演技が話題となった。

このドラマと同じ2023年の映画界で最高の作品と呼び声高かったのが、"韓国のアカデミー賞"と呼ばれる「第44回青龍映画賞」で最優秀作品賞を含む4冠を受賞した「密輸 1970」だ。インソンは本作にも名を連ねており、怪しい貫禄を漂わせた密輸王役で「第44回青龍映画賞」の助演男優賞に輝いた。

ＷＯＷＯＷシネマで6月29日(日)に放送される本作は、韓国の港湾都市で海女たちが金塊の密輸を手伝ったという実話をベースにしたクライムエンターテインメント。「ベテラン」シリーズなどで知られる韓国屈指のヒットメーカー、リュ・スンワン監督が密業者、チンピラ、税関、そして海人たちの思惑が入り乱れる様子を、スリリングなアクションを交えながら描く。

1970年代半ば、漁村クンチョンでは化学工場の汚染物質によって海が汚され、失業の憂き目に遭う海人たちは、生活を守るために密輸品の引き上げに手を出すが、順調な矢先、税関のガサ入れに遭ってしまう。その中で唯一摘発を逃れたチュンジャ(キム・ヘス)はソウルで新たな闇ビジネスをしていたが、同業者の縄張りを荒らしたことから借金まみれに。この窮地を脱するべくクンチョンに戻ったチュンジャは、かつての親友・ジンスク(ヨム・ジョンア)に新たな儲け話を持ちかけるが...。

キム・ヘスやヨム・ジョンアといったベテラン女優たちがチャーミングに演じる海人たちをはじめ、様々な立場のキャラクターが織りなす裏切りや友情が渦巻く予測不可能な人間模様が描かれる本作。その中でも"密輸業界のドン"として登場するのがインソン演じるクォン軍曹だ。

ビジネスを邪魔する者には自ら制裁を与えるベトナム戦争帰りの武闘派で、縄張りを荒らしたチュンジャを問い詰める初登場シーンからただならぬオーラがムンムン。表情を変えずに自分の話をさえぎるチュンジャの頭にカミソリを突き立てたり、ナイフをちらつかせながら不気味な笑顔を浮かべたり...。インソンは裏社会のキングとしての凄みと狂人性を一発で表現している。

また、部屋に押しかけてきたチンピラの群れとの大立ち回りも自ら演じており、アイスピックを的確に振り回すスピーディで華麗なアクションは圧巻。加えて、戦いを楽しむような戦闘狂な表情と覚悟を決めた殺気に満ちた顔つきまで、ケレン味のある演技でも壮絶なバトルを盛り立てている。