■命がけアクション路線の街道を敷いた第一人者、ジャッキー・チェン
古今東西のアクション・ヒーローを取り上げて掘り下げる当連載企画。その第一発目として、ジャッキー・チェン以上の適任はいないだろう。何しろ膨大な数の主演作品の、そのほとんどすべてにおいてアクションに次ぐアクションを見せてきた。しかも見ているこちらが思わず目を覆いたくさえなるような、体を張ったというには張りすぎたやつを、である。
近年ではトム・クルーズが映画の中で自ら飛行機にぶら下がったりして、この人大丈夫だろうかと思わされることも珍しくない。だが、トムの無茶なアクションに肝を冷やしながら、この感覚、どこかで...と思う。
遡ること30余年、我々は映画の中で時計台やら旗竿やら、無闇に高いところからガンガン飛び降りるジャッキー・チェンその人を目の当たりにしていた。危険なことを自分でやる。なぜ?と問うても問うだけ無駄なのかもしれない、と当時から思った。きっと「できるから」という答えしか返ってこないからだ。トムが今ひた走る無茶なアクション路線。その街道はジャッキーがかつて敷いたものなのである、と言って過言ではないだろう。
しかし我々はジャッキーのことを当たり前に受け止めすぎではなかろうか。と、時々思うことがある。何というか、ずっとそこにいる人として普通に考えていないだろうかと。1954年4月生まれだからもう66歳。その主演作品が日本で公開されたのは1979年の『ドランクモンキー 酔拳』(1978年)が最初だったから、多くの日本人にとってジャッキーはかれこれ42年間、「そこにいる」ことになる。しかし、この人の尋常でないキャリアを見てみると、そこにい続けたことそのものが奇跡であったのではないかと思わされるのだ。
1962年の『大小黄天覇』に端役で出演したのがキャリアの始まり。当時8歳、中国戯劇学院在学中のことだった。それからスタント担当や、やはり端役で長い下積み時代を送り、1976年の『レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳』でようやく主演デビューを飾る。だが同作を含む主演作は振るわず、『スネーキーモンキー 蛇拳』(1976年)でとうとう人気が爆発。こうしてキャリアの最初期を振り返るだけでも、その年季の入り方に思わず衝撃を受ける。
『~蛇拳』以降は『~酔拳』、『クレージー・モンキー/笑拳』(1979年)、『ヤング・マスター 師弟出馬』(1980年)などのヒットを連発し、愛嬌のあるキャラクターと激しいファイトでもってその人気を不動のものにする。このあたりの映画は土曜昼間のテレビで死ぬほど観た。そして月曜の学校で、自ら「ボッボッ」と効果音を出しながら、見よう見まねで無闇に腕を曲げたり伸ばしたりもした。誰もがジャッキーのつもりであった。
読者の皆さんの中にもそんな気持ちが分かる、けっこういい歳の方がおられるのではないかと思う。あの頃の小学生にとって、オープニングとエンディングだけがトリミングの都合で縦に圧縮された形になるジャッキー映画は、間違いなく一つの文化だった。
■大怪我を負いながらも、誰も見たことがないアクションに挑み続けた
1980年代ジャッキーの想像を絶する大驀進については今さら解説するまでもないだろう。『プロジェクトA』(1983年)に『スパルタンX』(1984年)、それに『ポリス・ストーリー/香港国際警察』(1985年)。いずれもぐうの音も出ない超大作だった。
いかなる映画でもジャッキーは体を張り、人間にできうるアクションの限界に挑戦していた。『サンダーアーム 龍兄虎弟』(1986年)では片耳の聴力をほぼ失う大怪我を負うが、ジャッキーの負傷はこれが最初でも、もちろん最後でもなかった。初期作品の時代から、撮影に怪我は付き物だった。誰も見たことのないアクションを演じることに、ジャッキーは文字通り骨身を、命を削っていた。
ジャッキー映画でおなじみ、エンドロールでのNG集は前述の『サンダーアーム~』でももちろん見られるが、そこには撮影中に負傷して救急車で運ばれていく姿までが映っていた。当時あまりの光景に、「なぜそこまで...」と疑問を持ちかけてやめた。きっと「できるから」という答えしか返ってこないと分かっていたからだ。
1990年代に入ってもコンスタントに作品を発表し続けたジャッキー。映画史に残る傑作『酔拳2』(1992年)を残しつつ、何度か試みていたハリウッド進出を『ラッシュアワー』(1998年)でついに成功させる。
純然たる米国映画である同作は俳優自身の無茶を許さず、以前の主演作が持っていたような、命の危険と隣り合わせのエクストリームな魅力をそこに見出すことは難しい。しかしアメリカの観客にとっては十分以上だったと見えて、作品は北米だけで1億ドルを超える興収を稼ぎ出した。
ゼロ年代に入るとハリウッドと香港の両方に軸足を置き、前者では『ラッシュアワー2』(2001年)、後者で『香港国際警察 NEW POLICE STORY』(2004年)などといったように、それぞれの拠点で作品を発表し続けた。
近年の『ザ・フォーリナー/復讐者』(2017年)などの例外を除いて、数多くの作品で陽気なアクション・ヒーローを演じ続けてきたジャッキー。慄然とさせられるのはその長いながいキャリアを通してほとんど休まず、思わず気が遠くなるほど膨大なフィルモグラフィを築き上げてきたことだ。数々の映画で見た、いかにも無茶なアクションを思い出すたび、今日までよく生き残ってくれたものだとの思いを新たにする(もう体は傷だらけだというが)。その奇跡に感謝して、一本一本を噛みしめるように観直したい。
文=てらさわホーク
てらさわホーク●ライター。著書に「シュワルツェネッガー主義」(洋泉社)、「マーベル映画究極批評 アベンジャーズはいかにして世界を征服したのか?」(イースト・プレス)、共著に「ヨシキ×ホークのファッキン・ムービー・トーク!」(イースト・プレス)など。ライブラリーをふと見れば、なんだかんだアクション映画が8割を占める。
放送情報
ファイナル・プロジェクト
放送日時:2021年4月7日(水)21:00~
チャンネル:ムービープラス
キャノンボール
放送日時:2021年4月10日(土)9:45~
スパルタンX
放送日時:2021年4月11日(日)8:00~
ラッシュアワー
放送日時:2021年4月17日(土)15:15~
ラッシュアワー2
放送日時:2021年4月17日(土)17:15~
チャンネル:ザ・シネマ
(吹)クレージー・モンキー/笑拳
放送日時:2021年4月11日(日)11:30~
チャンネル:スターチャンネル3
クレージー・モンキー/笑拳
放送日時:2021年4月18日(日)6:40~
チャンネル:スターチャンネル2
(吹)レッド・ドラゴン/新・怒りの鉄拳
放送日時:2021年4月11日(日)15:30~
(吹)成龍拳
放送日時:2021年4月11日(日)17:00~
(吹)ポリス・ストーリー/香港国際警察
放送日時:2021年4月12日(月)13:00~
(吹)ポリス・ストーリー2/九龍の眼
放送日時:2021年4月12日(月)15:00~
(吹)ポリス・ストーリー3
放送日時:2021年4月12日(月)17:15~
(吹)新ポリス・ストーリー
放送日時:2021年4月12日(月)19:00~
チャンネル:WOWOWプラス
※放送スケジュールは変更になる場合があります
詳しくはこちら