ジャンヌ・ダルクは偽りの聖女!?中村悠一梶裕貴らが朗読劇で見る者の心を引き込む

写真左から、諏訪部順一、津田健次郎、沢城みゆき、中村悠一、梶裕貴、梅原裕一郎、大塚明夫
写真左から、諏訪部順一、津田健次郎、沢城みゆき、中村悠一、梶裕貴、梅原裕一郎、大塚明夫

劇作家・舞台演出家、藤沢文翁とソニー・ミュージックエンタテインメントによる音楽朗読劇の新ブランド「READING HIGH」シリーズの第3弾「Chèvre Note~シェーヴルノート」が、5月19日(日)にファミリー劇場で放送される。神託を受けることができたといわれる伝説の乙女、ジャンヌ・ダルク。彼女は鎧をまとってフランス軍の兵士を先導し、イングランド軍に打ち勝ったとされる。しかし本作は、"もし、政治的に作り上げられた偽りの聖女だったとしたら..."そんなインスピレーションから書き上げられたダークファンタジーだ。

藤沢文翁は、ロンドン大学ゴールドスミス演劇学部に学び、英国朗読劇を独自に改良した"藤沢朗読劇"を多数発表している。これまでにも、コナン・ドイル、織田信長などさまざまなテーマで、謎解きと人間ドラマが渦を巻く意欲作を生み出してきた。彼の作品には毎回手練れの人気キャストが集結する。音楽性にあふれ、セットや衣裳、特殊効果など細部にまでこだわるスタイルが支持されている藤沢文翁だからこそのキャスティングだ。知性とエレガンスに裏打ちされた、彼が紡ぐ言葉を口にしたいと願う声優は少なくないだろう。

「Chèvre Note」にも、一言のセリフにいくつもの意味を含ませることができる役者がそろった。彼らの強みは、滑舌の良さやマイクに乗る音質の安定感だけではない。作品が要求するところを的確に捉える読解力と、作家の美学を引き受けるような態度にある。本作は史実を基にしたフィクションだが、百年戦争の末期に活躍した人物たちが登場する。中村悠一演じるジル・ド・レは、ジャンヌ・ダルクと共に勝利を収めた天才的な指揮官。作中で「面倒な男」だが「魂が純血で美しい」といわれるキャラクターは適役だ。周囲が何と言おうと己の信じるものを貫く説得力がある。

(C)READING HIGH

ジャンヌ・ダルクは沢城みゆきが担当。作中でジャンヌは、その言葉は誰もが信じてしまう天才的な詐欺師といわれるが、沢城の芝居はまさに変幻自在で農村出身の粗野で奔放な娘と、聖女と崇められる乙女を瞬時に演じ分ける。処世術と内から生まれる愛情の間での葛藤、運命に自分を差し出していく過程を丁寧に表現している。

ジャンヌの教育係アランソン公は梶裕貴が演じる。わが道を行くアクの強いキャラクターが多い中で、梶のバランス感覚の良さと清涼感は貴重だ。セリフの後口の良さが心地いい。中村扮するジル・ド・レを慕うラ・イルを演じたのは梅原裕一郎。同世代の若手と共演するアニメでは低音で押さえたキャラクターを担うことが多いが、この座組では最年少。やや高いトーンで、焦燥感に若さがにじむ戦友を好演する。

そして本作のよりどころになっているのが、シャルル7世役の津田健次郎、リッシュモン大元帥役の諏訪部順一、グラシャ=ラボラス役の大塚明夫の存在だ。冒頭は津田と諏訪部の掛け合いから幕を開けるが、15世紀フランスの宗教裁判という世界観にすぐに入り込むことができる。シャルルは自らが戴冠するために神をも利用するズルい人間だが、ステレオタイプではなく愛嬌と人間味があるのが津田ならではといえる。

策略家のリッシュモンはまさに諏訪部への当て書きではないかと思わせる人物で、顔色ひとつ変えずに周囲を罪に引き込んでいく。観客に状況を理解させるセリフも多いが、諏訪部の語り口ですんなりイメージが湧いてくる。大塚の唯一無二の声で「悪魔」だと言われれば納得する他ないのだが、人間の闇をのぞき込むような響きと、一方で悪魔という存在を演じていながら、作品全体にあらがえない生命力をみなぎらせるすごみがある。

歴史上のジャンヌは火刑に処され、痛ましい最期を迎えるが、「Chèvre Note」はそれだけでは終わらない。神と悪魔、真実と偽り、愛と死...。テーマの響き合いに撃ち抜かれる秀逸なラストは見逃せない。

文=千葉玲子

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放送情報

音楽朗読劇「Chèvre Note ~シェーヴルノート~」
放送日時:2019年5月19日(日)21:00~
チャンネル:ファミリー劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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