楠木ともりが朗読と歌声で紡ぐライブで見せた、声優とアーティストの顔

声優・シンガーソングライターの楠木ともりが7月25日、配信限定ソロライブ「Tomori Kusunoki Story Live『LOOM-ROOM #725 -ignore-』」を開催した。昨年12月22日に実施された「Kusunoki Tomori Birthday Candle Live『MELTWIST』」以来となる自身2度目の配信限定ソロライブは、1つの楽曲を歌詞の朗読とライブパフォーマンスという2つの異なる側面から追及していく、彼女らしい非常に意欲的な構成。朗読パートでは配信ならではの映像演出も用意されるなど、非常にコンセプチュアルな内容で見る者を圧倒した。

ライブは「LOOM-ROOM #725」のルームプレートがかけられた部屋に、楠木が入っていくところからスタート。部屋の中には書棚や椅子、暖炉などが設置されていて、彼女は書棚から1冊の本を手に取るとそのまま椅子に座り、「アカトキ」の歌詞を朗読し始めた。普段の歌唱スタイルと異なる、声優としての魅力が余すところなく発揮された朗読パートは、彼女のアーティスト活動において、新たな可能性を秘めたものになるはずと、この日のパフォーマンスを見て感じたファンは多かったことだろう。

朗読を終えると手にしていた本を椅子に置き、楠木はバンドメンバーがスタンバイする部屋へと移動。そして再び椅子に座りマイクを手にすると、バンド演奏に合わせて「アカトキ」を歌い始める。グルーヴィーな演奏に乗せて歌うことで、朗読から伝わる歌詞の響き方や伝わり方に変化を感じることができ、1つの楽曲の世界観をより深く味わうことができた。

以降も1st EP『ハミダシモノ』、2nd EP『Forced Shutdown』収録曲の数々を、歌詞の朗読を交えながら披露。「sketchbook」では楽曲の世界観を踏まえた、どこかひんやりとしたトーンの朗読が展開される。それは同曲の歌唱時とは異なる、声優ならではの巧みな表現といえるものだ。一方、楽曲披露パートでは歌詞で描かれた世界観を踏襲した照明演出と優しいピアノの音色、楠木のシルキーボイスが混ざり合うことで、朗読時とは異なる独特の空気が作り上げられていく。アンビエント調のアレンジが施された原曲とは異なり、この日はバンドアンサンブルによるアコースティック色を強めたアレンジで披露されたこともあり、サウンドに比例するようにリラックスした彼女の歌声で会場が充満されていった。

また、「眺めの空」の朗読パートでは原曲にはない新たな詩を追加。これにより、「眺めの空」で描かれる主人公の心情や曲中の情景がより明確に。さらに、ここでは楠木の移動に合わせて、朗読する彼女の声が左右に振られるなどの演出も用意。ヘッドホンやイヤホンで聴くことで、その変化をより明確に感じ取ることができた。その後の歌唱パートでは、曲冒頭をアコースティックギターと歌のみで表現するアレンジが施され、後のバンドパートによる演奏からの熱量の高まりを強調。彼女のボーカルも朗読時とは異なる感情の高ぶりが感じられ、改めて表現者としての多彩さを実感することとなった。

今回のライブでもっとも異彩さを放っていたのが、ライブ後半に披露された「Forced Shutdown」だ。薄暗い照明の中、楠木は攻撃的な側面と、表裏一体なもろさが同時に描かれた歌詞を、時に理性的に、時に感情の赴くままに朗読していく。その流れから突入する楽曲披露では、メリハリの効いたダイナミックな演奏、変拍子など要所要所にフックが用意されたアレンジを交えてボーカリストとしての力量を遺憾なく発揮。遊び心に満ちた演奏に乗せて、強さやはかなさに満ちた歌声を響かせた。

「Forced Shutdown」のカオティックな空気を払拭するように、続く「僕の見る世界、君の見る世界」の朗読パートでは明るさの中に切なさが散りばめられ、「Forced Shutdown」で描かれた世界を引き継ぎつつ、浄化させていくような空気を感じ取ることができた。いくつかのキーワードでつながった、「アカトキ」から始まったこの日のストーリーはこうしてポジティブな雰囲気のまま一度幕を下ろした。MCが一切存在せず、朗読と楽曲披露のみで構成された今回のライブのタイトルに含まれる「Story Live」の意味を、ここで実感することができた。

しかし、物語はこれだけでは終わらない。それまで朗読していた本を書棚に戻すと、代わりに一通の手紙を手にしてステージへと戻る楠木。そこで披露されたのが、家族や友人、ファンへの手紙のような一曲「バニラ」だ。歌そのものが手紙なのだから朗読はいらない、ということなのだろう。キャンドルのような照明演出の中、歌詞の一言一句を丁寧に歌い届ける彼女の姿からは、この日の「Story Live」のクライマックスにふさわしい神々しささえ感じ取ることができた。

約1時間にわたるコンセプチュアルなライブを終えた楠木が、最後に笑顔で部屋を出ていくと同時に、<拝啓〜>と彼女が手紙の朗読をするティザー映像が。ライブから1ヶ月後の8月25日(水)に、新曲「タルヒ」が配信リリースされることがアナウンスされた。さらに、パスワードを入力するとエントリーすることのできる謎のサイト「correlatlas.com」のオープンと、今年の冬に3rd EPがリリースされることも合わせて発表。声優としても、そしてシンガーソングライターとしても全力で活動する楠木が、新たに打ち出したコンセプチュアルなライブを経て、ここからどんな進化を遂げていくのか楽しみだ。

文=西廣智一

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セットリスト

M1 アカトキ【朗読】
M2 アカトキ【歌唱】
M3 sketchbook【朗読】
M4 sketchbook【歌唱】
M5 眺めの空【朗読】
M6 眺めの空【歌唱】
M7 Forced Shutdown【朗読】
M8 Forced Shutdown【歌唱】
M9 僕の見る世界、君の見る世界【朗読】
M10 僕の見る世界、君の見る世界【歌唱】
EN1 バニラ

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