当時28歳の西島秀俊の初主演映画!「ニンゲン合格」で体現した青年の危うさと心の渇き

「ニンゲン合格」(衛星劇場)
「ニンゲン合格」(衛星劇場)

西島秀俊が28歳の時に映画初主演を果たした作品が「ニンゲン合格」だ。本作のメガホンをとったのは「アカルイミライ」「トウキョウソナタ」「岸辺の旅」などを手がけ、海外でも高い評価を得る黒沢清。西島と黒沢は2016年に公開された「クリーピー 偽りの隣人」でもタッグを組んでいる。

本作、「人間失格」ならぬ「ニンゲン合格」で西島が演じているのは、14歳の時の交通事故がきっかけで10年もの間、昏睡状態だった青年・吉井豊。ポニー牧場を営んでいた実家に帰ると、そこに家族の姿はなく、父親の昔からの知り合いである藤森(役所広司)という男が釣り堀を営み、広い敷地にはガラクタが散乱。残されていたのは老朽化した家と一頭の馬だけだった。10年間も昏睡状態だったのだから、その空白を必死で埋めようとしそうなものだが、24歳になって目覚めた豊は藤森に「10年間で失くしたもの?俺、何、失くしたの?」と問いかける。ぶっきらぼうな受け答えと先が読めない行動は、観る者に中学生だった頃の豊を想起させる。夢と現実の間で彷徨う青年の渇きを西島が見事に表現している。

■バラバラになっていた家族と再会する青年の危うさを西島が好演

昏睡状態から10年ぶりに目覚めた青年を演じた西島秀俊
昏睡状態から10年ぶりに目覚めた青年を演じた西島秀俊

(C)KADOKAWA 1999

ある日、藤森と共同生活を営んでいる豊のもとを訪ねたのは父親。宗教活動のため海外を飛び回っているという話を聞き、ジュースを買いに外に出ただけで心配してついてくる父親に、豊はうっとうしがって冷たい視線を向ける。ほどなくして真っ赤なオープンカーに乗ってやってきたのはアメリカに行っていた妹の千鶴(麻生久美子)と、その夫(哀川翔)。聞けば母親(りりィ)は名字を旧姓に戻し、妹とも会っていないらしい。

母親に会いに行き、10年の間に変わってしまった家族の形を受け止めようとしながらも昇華できないでいる豊。その複雑な内面は、突発的な行動となって現れる。中学の同窓会を企画し、旧友と集まった帰り道に「シャッターの降りた書店の鍵の番号を覚えている」と言い出して、昔のように悪友と本を盗み出す豊。しかし、急に冷めた様子になり、友人たちを置いて帰ってしまう。淡々としていて何を考えているのか掴み所がなく、バランスのとれない豊の危うさを表現する西島の演技が見事だ。

■牧場を復活させようと1人奮闘する豊...家族は再生の道に向かうのか?

産業廃棄物の不法投棄によって藤森は家を出て行くことになり、1人になった豊は牧場を復活させようと決意する。やがて、様子を見にきた母親もそこに住むようになり、再びオープンカーで訪れた行き場のない妹夫婦も居候することに。1頭しか馬がいない吉井牧場の看板が立てられ、庭にはミルクバーを開設。食卓は賑やかになり、豊は「ほんの一瞬でいいから、もう一度家族みんなが揃うことってあるのかな?」と、初めて穏やかな笑顔を見せる。

豊は失った10年を取り戻すことができるのか?そして、家族は再生の道に向かうのか?後半に豊が放つ「そろそろ目を覚まさないと」という一言、衝撃的なエンディングまで予測不可能だ。

文=山本弘子

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放送情報

ニンゲン合格
放送日時:2023年2月2日(木)21:00~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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