物語のペースメーカーとなるのが、永山演じる河崎。常にマイペースな河崎は、押しの弱い隣人・椎名を巻き込んでいく。書店襲撃の後は、現在の椎名と河崎の物語と並行して、2年前のドルジと「風に吹かれて」を歌う女・琴美(関めぐみ)、そして謎の男(松田龍平)の物語が走り出す。この2つの物語が複雑な伏線で絡み合い、想像のつかないどんでん返しのラストが待ち構える本作は、作者の伊坂でさえも「映画化は、難しいと思った」と言ったほど。最後の最後まで何が核心なのかわからずに進んでいくが、絡み合った伏線から本当の物語が見えてくるところに驚きのあるミステリー作品。2007年の作品だが、物語の面白さも相まって、今見ても古さは感じられない。
とはいえ15年以上前の作品だけに、画面を見ていると意外な登場人物も現れる。自称「生まれついての走り屋」だが、免許を持っていないという椎名の同級生を岡田将生が演じているが、なんと岡田にとってはこれが映画初出演作。2009年に同じく伊坂原作で仙台を舞台にした映画「重力ピエロ」で、映画祭の新人賞を獲りまくるとは、まだ想像もしていなかった頃だろう。そして河崎に襲撃される書店の店員に、Mr.都市伝説ことハローバイバイの関暁夫が出演しているが、今とは違うヒゲのない風貌に、彼とは気付かないかもしれない。
河崎は捉えどころのない男だ。それだけに、この作品でも永山の緻密な演技が、河崎を輝かせる。しかも、河崎を演じるのには、永山の風貌でなければダメなのだ。ミステリーのネタバレになってしまうからその理由は書けないが、この作品には永山の見た目と演技力がどうしても必要なのだ。
「アヒルと鴨のコインロッカー」という不思議なタイトルも、物語を最後まで見たら納得できるはず。作中にはボブ・ディランの名曲「風に吹かれて」がキーとして登場する。今年の4月に、81歳にして東名阪で11公演もの来日ツアーを行ったボブ・ディラン。ミュージシャンでありながら、歌手として初めてノーベル文学賞を受賞した、まさに「神」といえる存在だ。神さまは、答えは風に吹かれている――と歌っている。ところで皆さんは、アヒルと鴨の違いを知っていますか?
文=坂本ゆかり
放送情報
アヒルと鴨のコインロッカー
放送日時:2023年5月5日(金)13:30~
チャンネル:WOWOWシネマ
放送日時:2023年5月15日(月)12:15~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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