本作で山田が演じたのは、「巨大怪獣の死体処理」という前代未聞の任務を遂行するために奮闘する青年・アラタ。ユキノも参加するクラス会を抜け出して仕事の電話をしている初登場シーンから、山田はいつもより低く凛々しい声を聞かせる。ユキノと2人きりになり、彼女から「元カレになにやら期待しすぎ?」と意味深な言葉を投げかけられても、少し困ったように微笑むだけの態度で、アラタのクールな性格を表現した。一方で、部下の椚山猫(SUMIRE)や上官の敷島征一郎(眞島秀和)に対しては心を許していることがわかる声のトーンや、会話の中で柔らかな笑顔を見せる山田の演技によって、アラタとユキノの間には、なにやら複雑な事情があることが伝わってくる。
正彦の差し金によって、巨大怪獣の死体処理の現場責任者に任命されたアラタ。真摯に任務に向かい合うものの、大臣たちの「怪獣なき後の世界」の主導権争いによって、指揮権が国防軍へ移行することに。怪獣退治の専門家を自称する真砂千大佐(菊地凛子)が、液化炭酸ガスによる冷却という付け焼き刃の作戦を実行しようとしていると知ったアラタ。その作戦の無謀さを指摘するシーンでは、山田はそれまでのクールな立ち居振る舞いから一転し、軽蔑の感情を包み隠さず表すことで、どれだけ真砂の計画が行き当たりばったりなものかを浮き彫りにする。「パシフィック・リム」などハリウッド映画に多数出演している国際的な実力派・菊地と山田による演技合戦も要注目だ。
真砂とは正反対に、仕事で何度も顔を合わせる中で少しずつ心の距離を縮め出すアラタとユキノ。本部を離れ、カフェで2人きりの作戦会議を終えたシーンで山田が見せる感情のこもった声や豊かな表情からは、アラタの心境の変化を感じとれる。
アラタを始めとする真面目な特務隊の面々と対照的に、コミカルなセリフ回しやアクションで画面をにぎやかしていく政府の要人たち。そのコントラストがピークを迎えるクライマックスの先には、誰もが予想し得なかったエンディングが待ち受けているだろう。どこかミステリアスな主人公・アラタを見事に演じきった山田に注目しながら、物語の行方を見届けてほしい。
文=中村実香
放送情報
大怪獣のあとしまつ
放送日時:2023年6月3日(土)16:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
放送日時:2023年7月2日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWプライム
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