小泉孝太郎が意欲的に臨んだ作品『ミステリー作家・朝比奈耕作「花咲村の惨劇」』

2012年に惜しまれつつも逝去した人気作家・吉村達也は、ニッポン放送のラジオディレクターを経て書籍編集者に転身し、後に作家デビューを果たした。編集者出身であることから、作家の立場を客観的に捉えるスタンスを持ち、業界の内幕を描いた作品なども残している。彼の代表作のひとつが、ミステリー作家・朝比奈耕作が探偵役を務める「朝比奈シリーズ」だ。2016年から2018年までTBS系「月曜名作劇場」で放送されたテレビドラマ版もよく知られている。

同作は小泉孝太郎が主人公の朝比奈耕作に扮し、事件を解決していくサスペンスシリーズ。その第1弾として放送されたのが、『ミステリー作家・朝比奈耕作「花咲村の惨劇」』である。

ミステリー専門の推理作家・朝比奈耕作(小泉孝太郎)は、巷で起こった事件は欠かさずスクラップして研究を怠らない。自らの足で現場に出向いて調査することもあれば、その事件を自身の小説のネタにすることもしばしばだった。

ある日のこと、耕作は自宅のリビングでパソコンに向かい、新作小説を執筆していた。その新作は以前、東京の世田谷で起こった女性の不可解な転落死事件を題材とする作品。耕作自身も聞き込み捜査や現場検証を行っていたが、真相には辿りつけずにいる未解決事件だった。

そんな耕作のもとに、20年以上前に亡くなっている父・耕之介(佐戸井けん太)宛の手紙が届く。その差出人は耕作がまさに新作の題材にしている転落死した女性の名前だった。タイムリーかつ不気味な偶然に興味を惹かれた耕作は、生前の耕之介と親しかった尾車(里見浩太朗)のもとを訪れる。一連の話を聞いた尾車は、生前、耕之介から預かったというある写真を持ち寄り、手紙の消印にあった「花咲村」について語り始める。その村こそ、民俗学者だった耕之介にとって因縁の土地。耕之介が調査の過程で身の危険を感じ、研究者人生の中で唯一調査を断念した村だったのだ。あれほど研究熱心だった父ですら調査を諦めるほど危険な村であるため、尾車は現地に向かおうとする耕作を制止しようとしたものの、村の伝説と世田谷の転落死事故に関係があるのか確かめるべく、耕作は鳥取県にある花咲村へと向かったが...。

物語は、連続殺人事件へと展開し、やがて驚くべき真相が明らかにされる。中国地方の奥深い山村が舞台である点など、横溝正史の「金田一耕助シリーズ」を思わせる妖しげな雰囲気がなんともミステリアスで、探偵役を務める小泉孝太郎も好演。原作の持ち味を生かした脚本と演出など、スタッフ陣の健闘も感じさせる良質なミステリーに仕上がっている。

佐戸井、里見以外の共演者は、警視庁捜査一課の中沢警部役の阿南健治をはじめ、星野真里、床嶋佳子、ジュディ・オング、児玉謙次、山中聡、阿部亮平、須藤温子、渋谷飛鳥、須田瑛斗らが顔をそろえた。特に女優陣の存在感が光っていて、床嶋、星野らの美しさやミステリアスな雰囲気が抜群である。

主演の小泉は、本作の製作発表時に「『金田一耕助シリーズ』の世界観に近い作品でありながら、新しさを感じる。朝比奈は推理作家という立場なのでニュートラルに、誰と出会ってもなじむようなキャラクターがいいだろうと、普通の青年を意識した」と語っている。

「原作がある作品はプレッシャーがある」という小泉は、撮影時に原作者である吉村さんの奥さんにも会ったという。彼女に励ましの言葉をもらって意欲的に撮影に臨んだそうだ。

本作で「朝比奈耕作としての自信ができた」と手ごたえをつかんだ小泉は、もともとミステリー作品と相性の良さを感じさせたが、この後も意欲的に刑事役や探偵役などに挑んでいる。本作は、彼の俳優人生の転機にもなった作品だと言えるのかもしれない。ストーリーに加えて、満開の桜に彩られたロケ地の風景も見どころの作品となっている。

文=渡辺敏樹

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放送情報

ミステリー作家・朝比奈耕作「花咲村の惨劇」
放送日時: 2023年8月4日(金)11:00~
チャンネル:ファミリー劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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