場面は飛んで2年後、ことねと別れたたすくが東京でひとりで暮らしている様子が映し出される。相変わらず度胸も中身もないたすくだが、地元から出てきた友人に、ことねが水商売で働いていることを聞かされ、秋田に舞い戻る。
しかし、たすくと再会を果たしたことねは、汚いものでも見るような目で「何しに来たの?」と問いかけ、真っ直ぐにたすくを見つめて養育費、慰謝料、さらには再婚する話までぶつけていく。その時のことねは、身体の中から何かが膨れ上がっているような印象を受ける。恐らくたすくに対する怒り、呆れ、諦めが入り混じった、複雑な感情が心の中に渦巻いているのだろう。
そうしたシーンを見るにつけ、吉岡が演じることねは、ふわふわした、地に足の付かない生き方をしてきたたすくに現実を突きつける存在と言える。そしてそのシーンに強烈な印象を受けるのは、吉岡がことねの心情を十二分に表現しているからだろう。
特に注目したいのは、ことねがたすくの母とパチンコ店でバッタリ出会って会話する場面。この作品には独特の"間"があるのだが、その間の中で少しずつ表情を変え、気持ちが揺れ動くさまを表現するシーンは絶品というほかない。
本作は、かの是枝裕和監督が才能を認める佐藤快磨監督の初の商業監督作であり、スペインの映画祭の第68回サン・セバスティアン国際映画祭で最優秀撮影賞を受賞するなど、何かと話題にもなった。吉岡の演技と共に、日本映画の未来を担うであろう佐藤監督渾身の作品をじっくりと味わってはいかがだろうか。
文=堀慎二郎
放送情報
泣く子はいねぇが
放送日時:2023年8月1日(火)11:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
放送日時:2023年8月14日(月)11:45~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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