浜辺美波演じる、運命に抗う少女の姿にハッとさせられる『約束のネバーランド』からの爽快なメッセージ

タイプの異なる2人の職員との頭脳戦も見どころ!
タイプの異なる2人の職員との頭脳戦も見どころ!

(C)白井カイウ・出水ぽすか/集英社 (C)2020映画「約束のネバーランド」製作委員会

映画版だけのオリジナル要素としては、原作で「GFハウス脱獄編」の後に登場する謎の男(=ピーター・ラートリー)を、『ツナグ』(2012年)や『耳をすませば』(2022年)など平川監督作品に多く出演する松坂桃李が演じている。イザベラの上司で、原作では顔が描かれなかったグランマ役に大女優・三田佳子が扮し、すごみのある貫禄を見せつけるのも注目だ。

ハウスの子どもたちが身につけている真っ白な制服や、様々な人種の子どもたちのヘアスタイルなど、キャラクターのビジュアルも細部にいたるまで原作にとことん忠実。特にエマの活発な性格を表す、頭の上についた、くるんと飛び跳ねたような触角風の巻き毛までしっかり再現されている様子には思わずにんまりしてしまう。

すべての出来事がハウスの敷地内で起こる物語ゆえに、ハウスの建物や、ハウスの前に広がる雄大な森もまた、本作にとっては大切なキャラクターだ。海外ファンタジーに出てくるような美しいハウスの外観は、国指定重要文化財でもある福島県の洋館、天鏡閣。子どもたちが鬼ごっこを繰り広げる奥深い森は、長野県の入笠高原牧場がロケ地になっている。

原作に忠実な作品であればあるほど、数少ないオリジナルの演出には制作側の深い意図が込められているもの。本作でいえば、クライマックスのエマとイザベラの対峙シーンがそれにあたる。原作にはなかったけれど、きっと誰もが心の底では観たいと思っていたシーンを映画版でエモーショナルに描き切ってくれたのがうれしい。

ハウスの中で築かれた、ママと子どもたちとの歪んだ絆にもグッとくる
ハウスの中で築かれた、ママと子どもたちとの歪んだ絆にもグッとくる

(C)白井カイウ・出水ぽすか/集英社 (C)2020映画「約束のネバーランド」製作委員会

柵や門、塀に囲まれた閉鎖的なハウスの空間を、子どもにとっての「家庭」とするならば、エマとイザベラの関係性は、成長して自由を求め、外の世界に飛び出したいと願う子と、我が子を危険が待ち受ける外の世界ではなく、安全な手元に置いておきたいと思う母の関係になぞらえることができるかもしれない。

そもそも、エマたちが賢く、行動力のある、心優しい子どもに育ったのは、イザベラが彼らにたっぷりと愛情を注ぎ、のびのびと健全に育ててきたおかげ。その行動には、鬼が最も欲するのが、より発達した人間の脳だから、という残酷な理由があったにせよ、美味しい脳を作るためにやってきたことすべてが、結果的に、エマたちの勇気や自立心を育むことにつながっていった――という皮肉がピリリと効いている。

「死」から決して逃れられない人間は、生きている間も、理不尽な環境や運命に対して、ついあきらめてしまいがちだ。〇〇ガチャという言葉が生まれたように、これは自分の力ではどうしようもない運命なのだから仕方ないと、自分の運命を呪いつつも現実を受け入れたほうが、抗うよりもずっとラク。だからこそ、エマの「世界は変えられない。変えられないなら、作ればいい!」という言葉にハッとさせられる。自分の人生は運命によって決定づけられてしまうと思い込んでいる人たちに、本作が贈る爽快なメッセージだ。

文=石塚圭子

石塚圭子●映画ライター。学生時代からライターの仕事を始め、様々な世代の女性誌を中心に執筆。現在は「MOVIE WALKER PRESS」、「シネマトゥデイ」、「FRaU」など、WEBや雑誌でコラム、インタビュー記事を担当。劇場パンフレットの執筆や、新作映画のオフィシャルライターなども務める。映画、本、マンガは日々を元気に生きるためのエネルギー源。

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放送情報

約束のネバーランド
放送日時:2023年9月10日(日)18:00~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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