1998年に日本テレビ系で放送されたドラマ「世紀末の詩」は、「101回目のプロポーズ」(フジテレビ系)や「高校教師」(TBS系)などを手掛けた野島伸司が脚本を担当した。
本作は、竹野内豊が主演し、生きることに絶望した2人の男が、どこか悲しげな人物たちと出会い、切ない愛の物語が展開するという一話完結のドラマ。「今世紀最後のラブストーリー」というキャッチフレーズで話題を呼んだが、野島作品らしく予定調和には終わらないほろ苦いストーリーで、「愛とは何か」という問いを視聴者に問いかける重厚なドラマであった。
物語の幕開けは、結婚式の場で婚約者に駆け落ちされた野亜亘(竹野内豊)と、学長選挙に1票差で敗れて失望した大学教授の百瀬夏夫(山崎努)が、それぞれビルの屋上から自殺を図ろうとする場面から始まる。そんな2人の姿を、子猫のような表情で笑う謎多き少女・ミア(坂井真紀)。奇妙な出会いから、3人の男女は廃屋で共同生活を始めることになる。
各話の主人公たちは決してハッピーエンドに終わらず、悲劇的な愛の結末を迎えるのだが、正直なところ救いがなく辛いストーリーであることも多い。今見ると多少違和感があるかもしれないが、冷静に振り切った脚本に野島の覚悟がうかがえる。例えば、目の見えない恋人のために懸命に働いて手術を受けさせる男の話(第2話「パンドラの箱」)では、手術は成功するもののあまりにも悲劇的なラストに至る展開に、衝撃を受ける視聴者も多いはずだ。
ただ、本作の価値はまさにそんな「文学性」にあると言ってもいい。ドラマの枠を超えて「愛」という人間にとって極めて重要なテーマについて、深く考えさせられる作品だからだ。本作の視聴率は、初回は18%を超えるなど決して悪くなかったものの、大ヒットメーカーの野島作品にしては物足りない数字だった。それでも、「嫌らしく数字を取りにいっていない」制作側の姿勢には好感が持てる。
キャスト陣では、やはり主役の竹野内の好演が光る。ヒーロー的でカッコいい役柄が多かった当時の竹野内のイメージからは意外性のある役どころ。自惚れ屋で頼りない性格で、愛の存在を信じつつ、失恋の痛手から「誰も愛せない」と言う。それでいて毎回登場する女性たちの魅力についついときめいてしまうという野亜の複雑な人物象を巧みに表現している。いわゆる「味のある」演技を見せ、後年の表現力を増していく竹野内の俳優人生にとっても、転機となった役柄だとも想像できる。
共演の山崎努の演技も相変わらず見事だ。学長選に敗れて大学を辞め、旅に出るために「潜水艦作り」に精を出す百瀬を演じるが、元ノーベル賞候補でもあり知能の高さと卓越したユーモアセンスを誇る。しかし、無類の女性好きで下劣な一面もある。こんな役どころは、まさに芸達者な山崎の真骨頂で、ノリノリで演じている。野亜とは対照的に愛の存在を否定する皮肉屋でもある。
また、ミアを演じる坂井の演技も魅力的だ。カタコトのような日本語を話し、過去は一切不明。「自分は死神」と表するなど謎が多い美女として、視聴者をくぎ付けにしてしまう。ほかに、レギュラーとして小学校教師・羽柴里見を演じる木村佳乃も好演。広末涼子(第1話)、遠山景織子(第2話)、藤原竜也(第6話)、大沢たかお(第9話)といった毎回のゲストも多彩で豪華な顔ぶれだ、
決して派手な作品ではないが、見どころ満載の意欲作といえる「世紀末の詩」はこのような重厚なテーマのドラマは近年では珍しく、貴重な作品だと言えるだろう。主演の竹野内の演技をはじめ、今だからこそ見る価値が大いにある一作だ。
文=渡辺敏樹
放送情報
世紀末の詩#1
放送日時: 2023年9月3日(日) 2:00~
チャンネル:ホームドラマチャンネル 韓流・時代劇・国内ドラマ
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