上川隆也の卓越した心理描写に引き込まれる、ドラマ「長く孤独な誘拐」

2004年にTBS系で放送された2時間ドラマ「長く孤独な誘拐」は、上川隆也が主演し、人気ミステリー作家・貫井徳郎の小説が原作の作品だ。物語の冒頭、小さな漁港で働く主人公・森脇耕一(上川隆也)と、彼に駆け寄る妻・和代(羽田美智子)と息子・耕平(鎌田拓充)のささやかで幸せそうな日常が描かれる。しかし、幸せそうに見える彼ら一家には、壮絶な過去があった。

3年前、住宅販売会社の優秀な営業課長だった耕一が販売した新築住宅に欠陥があり、原因を調査したところ発注したものと明らかに違う杜撰な工事が行われていたことがわかる。しかし会社側は、耕一の抗議を受け付けず、逆に疎ましく思われたのか左遷されてしまったのだ。そんな矢先に息子の耕平が誘拐され、犯人からは身代金ではなく、「別の子供を誘拐せよ」という要求がなされる。やむを得ず、耕一は犯人の要求通りに指定された子供を誘拐することになるのだが...。

愛するわが子を助けるために、誘拐犯になってしまう夫婦の複雑な心理を上川隆也、羽田美智子が巧みに演じ、犯人から続々と繰り出される細かな指示に対し、悩み苦悩しながらも従わざるをえない夫婦の緊迫感を見事に描き出した傑作サスペンスである。

貫井徳郎は、新本格ミステリーのトリックものをはじめ、幅広い分野の作品を手がけている作家で、デビュー作の「慟哭」をはじめ、代表作「乱反射」や症候群シリーズなど、多くのミステリーを残しているが、映像作品は決して多いほうではない。貫井作品の特徴は俗に「イヤミス」とも称される「苦み」にあり、結末になんとも言えない暗さもあるものの、それが重厚で深みを感じさせてファンを虜にするのだ。映像化が難しいとされる所以だが、さらに登場人物の心理描写が複雑かつ精緻なために、役者の力量が要求されることも要因かもしれない。本作においても、ミステリーでありつつ、重厚なヒューマンドラマとしても見ごたえのある一作に仕上がっているが、それを可能にしたのは、なんといっても主演の上川の俳優としての実力の高さにほかならない。妻役の羽田の演技も素晴らしいのだが、上川がうまく羽田を引っ張って、相手役の良さまで引き出しているという印象も受けた。

本作の2年後、上川はNHK大河ドラマ「功名が辻」に山内一豊役で主演し、見事に大役を好演して評価を高めている。本作は俳優として上り調子だった上川のポテンシャルを大いに堪能できる一作と言えるだろう。本作と同じ2004年放送のNHKドラマ「最後の忠臣蔵」においても、主人公の赤穂義士・寺坂吉右衛門という難役に挑み見事な演技を見せている。

近年も大人気を博している代表作の「遺留捜査」シリーズなどの主演作をはじめ、2023年放送の日曜劇場「ラストマン-全盲の捜査官-」など脇役でも存在感を示している上川だが、その実力を十二分に再確認できる作として、「長く孤独な誘拐」は、ファンならずとも要チェックの一作だ。

文=渡辺敏樹

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放送情報

長く孤独な誘拐
放送日時:10月8日(日)10:00~、再放送:10月20日(金)15:00~
放送チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽

※放送スケジュールは変更になる場合があります

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