「うたかたの恋」のルドルフはそんな柚香の本領が発揮される役どころだったと思う。激動の時代とハプスブルク家の重みに押し潰され、壊れていくガラス細工のようなルドルフであった。
一方、トップ娘役の星風まどかは、ヒロインのマリーを地に足のついた女性として演じてみせた。身分違いで、ただ憧れるだけであった男性と、命を捧げるまでの深い関係となっていく。そんなマリーの気持ちの変化にもきちんと焦点が当てられているように感じた。
今回、ルドルフ、ジャン・サルヴァドル(水美舞斗)、そしてフェルディナンド大公(永久輝)と、ハプスブルク家の皇子の、三者三様の生き様が対比される。ルドルフと対照的に自由に生きるジャン・サルヴァドルは、最後の舞踏会でマリーを守るべく、皇太子妃ステファニーの手を取って決然と踊る姿が印象的だ。「二人のために自分にできることは、これしかないのだ」という哀しみも伝わってくるようだった。
「サラィエヴォ事件」の犠牲者として知られるフェルディナンド大公の役を膨らませ「事件前夜」を描いてみせたことは、歴史劇としての厚みを増す効果もあった。やがて彼が第一次世界大戦の引き金を引いてしまう。そうとわかっているだけに、今回の作品の中でのフェルディナンド大公の選択はやるせない。
2023年花組版は今の時代、今のタカラヅカが生み出した「うたかたの恋」であり、これまでの再演版と見比べるのも面白いだろう。
文=中本千晶
放送情報【スカパー】
「うたかたの恋」('23年花組・東京・千秋楽)
放送日時:2月4日(日)21:00~ほか
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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