花組トップスター・柚香光が新たな一面を見せた宝塚歌劇『アウグストゥス-尊厳ある者-』

柚香光
柚香光

花組公演『アウグストゥス』は、古代ローマで帝政を始めたオクタヴィウスを主人公とした物語だ。時は紀元前1世紀のローマ、「内乱の1世紀」と呼ばれる混迷の時代が舞台である。

領土を広げ、多様な民族が入り混じるようになったローマでは、「元老院」での合議で進める「共和政」が難しくなりつつあった。そこで、「これからは強力なリーダーシップで国を導いていくことが必要」と考えたのがカエサルだ。だが、強引に独裁を進めようとしたカエサルは、ローマ共和政の伝統を守ろうとするブルートゥスの一派に暗殺されてしまう。

このときカエサルの遺言により、わずか18歳にして後継者に指名されたのが、この物語の主人公・オクタヴィウス(後のアウグストゥス)だった。そこに立ちはだかるのが、武勇に優れたアントニウスである。オクタヴィウスは、エジプト女王クレオパトラと結んだアントニウスと「アクティウムの海戦」で対決することになる...。

つまりこの作品は、カエサル暗殺の後、オクタヴィウスがアントニウスと戦ってローマの最高権力者の地位に登り詰める「まで」の成長物語なのだ。

幕開けのオクタヴィウスは、ずいぶんと頼りない若者にみえる。だが、権力闘争の過程で、彼は「理想を追い続ける勇気」と「現実を冷静に直視する勇気」を獲得していく。ラストシーンで見せるのは、苦難を乗り越えて成長し、頂点に立つ者としての覚悟を決めた晴れやかな表情だ。

このオクタヴィウスを演じるのが、花組トップスター・柚香光である。『花より男子』の道明寺司役や『はいからさんが通る』の伊集院少尉役では、まるで原作漫画から抜け出てきたような姿で、鮮烈な印象を残してきた。現代的でファッショナブルなイメージが強かった柚香が、この作品では新たな一面を見せてくれている。

カエサルやアントニウスと比較しても主人公として描かれることは少なかったオクタヴィウスだが、意外と柚香によく似合っていたような気がする。あくまで冷静に、かつ緻密にものごとを突き詰めていく生き様が、舞台に向かう柚香のストイックな姿勢に重なって見えるからだろうか。

オクタヴィウスが一皮むけるためのインスピレーションを与える存在として描かれるのが、当時のトップ娘役・華優希が演じるヒロイン、ポンペイアである。この難役を、本作で退団した華が持ち前の芝居心でどう料理して見せてくれるのかも注目したいポイントだ。

華優希
華優希

©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

権力の頂点への野心を燃やしながらも、クレオパトラとの恋に溺れ身を滅ぼしていくアントニウス(瀬戸かずや)。瀬戸もこの作品が退団公演となったが、その男役道の集大成ともいえる骨太なアントニウス像を創り上げている。

女王としての責務と一途な恋心との間で揺れるクレオパトラ(凪七瑠海)、カエサルへの恩義と共和政への理想との間で悩めるブルートゥス(永久輝せあ)など、世界史の時間に名前を聞いたことのある有名人が続々と登場して、人間味あふれるドラマを展開する。

史実でもオクタヴィウスを支えたのが、アグリッパ(水美舞斗)とマエケナス(聖乃あすか)だ。じつは戦いが得意でなかったオクタヴィウスは盟友アグリッパの存在なしには天下は取れなかったといわれている。そんな二人の関係性に、入団同期である柚香・水美の関係性を重ねてみるのも宝塚ならではの楽しみ方だろう。

観れば世界史の勉強にもなってしまうという一挙両得な歴史劇である。劇場で観劇したときわかりにくかったところも、スカイ・ステージの放送を見直せばばっちり「復習」できそうだ。

文=中本千晶

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放送情報

アウグストゥス-尊厳ある者-(’21年花組・東京・千秋楽)
放送日時:2022年6月9日(木)20:00~ほか
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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