花組・柚香光城妃美伶のハマり役!宝塚版『花より男子』の魅力とは

『花より男子』('19年花組・TBS赤坂ACTシアター)より
『花より男子』('19年花組・TBS赤坂ACTシアター)より

長年嘱望されていた人気漫画のタカラヅカでの舞台化が、2019年、最適なキャストを得てついに実現した。脚本・演出の野口幸作は長年この作品の"花組での"舞台化を切望しており、何度も劇団に企画を提出したという。そんな野口の思い入れのある作りになっているタカラヅカ版『花より男子』が、3月15日(日)にタカラヅカ・スカイ・ステージで放送される。

物語の舞台はお金持ちの子女が集まる「英徳学園」。この学校は超イケメンの4人組「F4」によって支配されており、F4に「赤紙」を貼られた人は全校生徒のイジメに遭うという恐ろしいルールまである。そこに何故か両親の期待を背負って入学させられてしまった庶民の娘・牧野つくし。最初は「赤紙」のターゲットにされ酷い目に遭うが、つくしの明るさと勇気がこれを打破し、「F4」のリーダー・道明寺司もつくしの影響を受けて次第に変わっていく。

タカラヅカ版では長い原作のうち12巻の「ティーン・オブ・ジャパン」につくしが出場するくだりまでが舞台化されている。限られた上演時間の中に原作でおなじみのエピソードがうまく盛り込まれ、テンポの良い話の運びが小気味良い。

『花より男子』('19年花組・TBS赤坂ACTシアター)より

~原作 神尾葉子「花より男子」(集英社マーガレットコミックス刊)~ (C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

この作品の魅力のひとつは、つくしに想いを寄せる御曹司・道明寺司の型破りなキャラクターだろう。いきなり自家用ジェットで好きなところに行ってしまうようなセレブで、やることなすことスケールが違う。それなのに「お前とは雲泥(うんどろ)の差だな」「竹馬(たけうま)の友っていいよな」などと言ってしまうヌケたところもある。一見高慢で強引でイヤな奴だが、本当の本当は真っ直ぐで純情な、心優しい男である

そんな道明寺役は主演の柚香光のハマり役だった。昨年11月に退団した明日海りおの後を受けて花組の新トップスターとなった柚香は、現代的でスタイリッシュな容姿の持ち主で少女漫画の主人公が良く似合う。2017年に『はいからさんが通る』でも主演して話題を呼んだが、この作品は今年春にも宝塚大劇場・東京宝塚劇場での再演が予定されている。また、切れ味の良いダンスにも定評があり、1月に上演されたプレお披露目公演『DANCE OLYMPIA』では"ダンスの花組"の再来を予感させた。

原作では道明寺と並ぶ人気キャラクターである花沢類も聖乃あすかにぴったり。繊細でちょっと謎めいた雰囲気がよく出ていて、柚香の道明寺とも好対照だった。西門総二郎には入団3年目の希波らいとが大抜擢。抜群のスタイルの良さに目を惹きつけられる。小悪魔的な遊び人だが茶道の家元として時折見せてくれる着物姿が新鮮だ。そして美作あきらの優波慧が、大人の男の落ち着きと包容力を醸し出す。常に他のメンバーに目配りする様も優波自身に重なってみえた。

幕開け、原作漫画の4人が描かれたパネルから実物が登場する瞬間は、2次元世界がたちどころに3次元化されるようでワクワクする。このやり方は漫画の舞台化の元祖、『ベルサイユのばら』の初演の幕開きを踏襲したものだ。

『花より男子』('19年花組・TBS赤坂ACTシアター)より

~原作 神尾葉子「花より男子」(集英社マーガレットコミックス刊)~ (C)宝塚歌劇団  (C)宝塚クリエイティブアーツ

だが、ここまでの話だとこの作品の評価は単に「原作の再現率がすごかったよね」「F4が素敵だったよね」で終わっていたかも知れない。原作を知らない人やタカラヅカをあまり見たことがない人も含め、この作品が観客の心を動かしたのは、やはり庶民代表・牧野つくしのおかげだと思う。つくしが次々と降りかかる無理難題を乗り越えていく姿には思わずエールを送りたくなるし、我が身を重ねて勇気をもらえるだろう。

城妃美伶のつくしも道明寺に負けず劣らずのハマり役。それは「夢の世界」タカラヅカにおける娘役の殻を破った、地にしっかり足のついた女の子だった。物語の終盤で片手側転を見事に決め、舞台全体を駆け回る姿は力強く頼もしい。タカラヅカの娘役の新たな可能性を示したという点でも、この作品は価値ある1作だ。

文=中本千晶

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放送情報

『花より男子』('19年花組・TBS赤坂ACTシアター)
放送日時:2020年3月15日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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