その後も、大上の指示で加古村組構成員に喧嘩を売って逆に痛めつけられたり、加古村組と対立する尾谷組の事務所を訪れた時に辛そうな表情を見せたり、大上独特の捜査に振り回されている様子がよくわかる。加古村組構成員が刃物で襲いかかった時の恐怖に引きつった顔などは、迫真の演技と言えるだろう。
一方の大上は、呉原の裏社会において名の通った存在だ。どっかりとソファに腰掛けて尾谷組の面々とやり取りする大上と、その横で居心地悪そうに立ち尽くす日岡との対比からも、日岡のこの世界での経験のなさが伝わってくる。
尾谷組から賄賂と思しき封筒を受け取ったり、物証を得るために放火したり、大上の型破りな捜査は続く。実は日岡は大上の違法捜査を調べるために派遣された監察官であり、当然そのやり方に疑問を抱く。大上が加古村組の構成員を拷問した後、別の場所で声を震わせながら「こんなもの正義とは言えません!」と叫ぶ姿には、大上の無茶なやり方に心から反発している様子が伝わってくる。
しかし物語が進むにつれ、日岡は裏社会での大上の存在感と、彼の信条を知るようになる。特に2人でクラブで飲んでいる時、大上は心に響く名台詞を連発する。その言葉によって日岡は刑事としての大上の生き様を思い知ることになるのだ。その後の日岡はまるで別人だ。監察官の上司と真っ向からにらみ合ったり、養豚場の息子を無表情でぶちのめしたり、当初の真面目な日岡の面影はどこにもない。しかしそれが、綺麗ごとの正義では裏社会を抑えられないという現実、裏社会と対峙してきた大上の生き様が胸に刻み込まれた日岡の姿であることは言うまでもない。
本作の初日舞台挨拶で、役所が松坂の演技について「繊細に自分の役を積み重ねていくちゃんとしたプランをもった俳優さん」と褒め称えている。その言葉の通り、物語の中での日岡の変化を痛いほどに伝えてくる松坂の演技力はさすがと言えるだろう。
本作は第42回日本アカデミー賞で最多12部門を受賞するなど評価が高く、松坂も同賞の最優秀助演男優賞ほか、複数の映画賞を受賞している。そしてこの流れは、同じ日岡役で松坂が主演した続編「孤狼の血 LEVEL2」(2021年公開)へと繋がってゆく。松坂の演技と、真面目な新米刑事から裏社会を抑える存在となってゆく日岡秀一の生き様を、シリーズを通してじっくり味わってみてはいかがだろうか。
文=堀慎二郎
放送情報【スカパー!】
孤狼の血
放送日時:2024年2月24日(土)21:00~
チャンネル:WOWOWプラス 映画・ドラマ・スポーツ・音楽
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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