俳優・佐野史郎がゴジラ解釈論を展開...最新作「ゴジラ-1.0」から第1作まで「ゴジラには能に通じる要素がある」

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■ゴジラ映画は神様にささげる現代の「能」

――――ゴジラの造形についてはいかがでしょうか

「第1作のゴジラには表情がありません。それは、技術的に不可能だったためでしょうが、結果的に『表情が変わらないのに怖い』という能面のような効果が生まれました。さらに、完成したゴジラのスーツは重過ぎて足を上げることができなかったので、円谷英二特技監督(当時のクレジットは「特殊技術」)は、スーツアクターの方に『能のようにすり足で歩け』と指示されたそうです」

――――ゴジラには「能」の要素があると?

「僕は、ゴジラを出雲大社の『神迎祭』で奉納される『龍蛇神(りゅうじゃしん)』に通じるものがあると考えています。『能』に通じる『芸能』のルーツをさかのぼってみると、見えざる力に対して畏怖し、ささげ、祈るという儀式にたどり着きます。つまり、ゴジラの生みの親である田中友幸プロデューサーが怪獣映画で目指したのは、『現代の能』だったのではないかと。それは、ゴジラだけでなく、キングギドラやモスラ、ラドンといった怪獣が、いずれも日本の古代神話を踏襲していることからも明らかです。そういった神話的背景を踏まえると、ゴジラ映画は『時代の不安を鎮めるための神様へのささげもの』だと考えられます」

■『ゴジラ-1.0』の持つ意味

――――終戦直後を舞台にした『ゴジラ-1.0』もその流れをくんでいると?

「混迷する世界情勢の中で、この先どう進んでいけばいいのか、暗中模索の状態にあるのが今の日本です。そこにはっきりとした答えが欲しい、安心できる救いが欲しい。その切実さは、終戦直後の混乱にも通じます。だからこそ、『ゴジラ-1.0』では終戦直後が舞台に選ばれたのではないでしょうか」

――――『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞®視覚効果賞受賞については、どのように捉えていますか

「日米の映画界は、これまで長く技術的なキャッチボールを続けてきました。アメリカの『キングコング』(1933年)や『原子怪獣現わる』(1953年)に影響を受けた円谷監督らが、『ゴジラ』などの怪獣映画を製作。それを見た米国が技術力の高さに驚き、今度はSFXやVFXを発展させ、それが『ゴジラ-1.0』の誕生につながった。つまり『ゴジラ-1.0』のアカデミー賞®受賞は、これまで続いてきた日米のキャッチボールの一つの到達点だと言えます」

――――今後誕生する令和のゴジラ映画には、何を期待しますか

「今の時代、CGやVFXなしのゴジラ映画は考えられません。ただ、CGが主流となった近年は『テクニック』、すなわち『技芸』で見せる傾向が強くなってきたように感じます。俳優という仕事をしてて強く感じることなのですが、『技術』で見せるのではなく、能の心ともいうべき『どのようにしてその場にいるか』という『態』が何よりも大切なのではないかと思います。『芸』と『能』の心は、表裏一体でどちらが優れているというものではありませんが、円谷監督が目指したのは、『態』で見せるゴジラだったと振り返ります。そう考えると、スーツアクターが『態』で表現し、鎮めることに身をささげるゴジラの姿も、できれば今一度、見てみたいですね。また、ゴジラ映画はこれまで一貫して『反核・反戦』というテーマを貫いてきました。それは忘れないでほしいです」

(プロフィール)さの・しろう●1955年3月4日生まれ、島根県出身。1975年劇団シェイクスピアシアターの創立に参加。 1979年退団後、唐十郎が主宰する状況劇場を経て、1986年『夢みるように眠りたい」で映画主演デビュー。ドラマでは1992年「ずっとあなたが好きだった」(TBS)での冬彦役の演技が話題に。以降、数々の映画・ドラマ・舞台で活躍。朗読や写真、執筆、バンドの活動なども行う。出演映画「カミノフデ 〜怪獣たちのいる島〜」7月26日(金)より公開。

取材・文=井上健一

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放送情報【スカパー!】

ゴジラ-1.0
放送日時:7月6日(土)20:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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