趣里の闇が垣間見える演技が圧巻!塚本晋也作品「ほかげ」で体現した「ブギウギ」と対照的なキャラクター

塚本晋也監督が戦争孤児の運命を描いた反戦ドラマ「ほかげ」
塚本晋也監督が戦争孤児の運命を描いた反戦ドラマ「ほかげ」

(C)2023 SHINYA TSUKAMOTO/KAIJYU THEATER

趣里が演じたのは居酒屋の店主。伏し目がちな表情や光を失った瞳、多くは語らない淡々とした口調に、彼女の経験してきた絶望を想像させる。恐ろしい戦争を生き延びた後も続く苦しみと痛み、孤独と喪失を纏いながらも戦争孤児の少年との関係に光を見出す。

少年との関わりの中で変化する心境も趣里は繊細に表現し、「坊や」と呼びかける声に温かな母性を感じさせる。また、希望を見出した瞬間に光が灯る瞳、闇が垣間見える凄みのある演技にも惹き込まれる。戦争に翻弄され苦しみの中にも生きていこうと足掻く姿が生々しく、強い印象を残した。

物語の後半から少年が見つめるのは、森山未來が演じる片腕が動かない謎の男。森山は、映像作品だけでなく舞台やダンスなどジャンルに捉われない表現者として広く活躍している。一見飄々とした自由さで少年と交流するが、ふとした瞬間に底知れぬ闇を覗かせる...。

謎めいた佇まいで彼のバックボーンもはっきりとは語られないが、戦争から生きて帰ってきてしまった彼は何かを背負い、その重さに苦しめられている。心の奥底に蠢く怒りや悲しみが森山の身体すべてから伝わる圧巻の演技力と唯一無二の存在感で、戦争の加害者としての苦しみもリアルに表現した。

インディーズならではの機動性の高さと自由な表現で、人間の中に潜む暴力、分かち難く絡む死と生を描き出した本作。第80回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門でNETPAC賞を受賞したほか、第48回トロント国際映画祭など国際映画にも正式出品し、世界的にも注目を浴びた。半焼けの居酒屋での女との暮らしと片腕が動かない男との旅、空襲で家族を失った戦争孤児の目から見た戦争と人間が色濃く映し出された。孤児の少年を演じた塚尾桜雅の無垢な眼差し、趣里と森山の巧みな演技が、現代の人々に「戦争とは何か」を問いかけている。

文=中川菜都美

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放送情報【スカパー!】

ほかげ
放送日時:2024年8月11日(日)21:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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