田中圭の演技の真骨頂、奈緒の変幻自在の俳優魂が堪能できる会話劇「Medicineメディスン」

舞台「Medicine メディスン」
舞台「Medicine メディスン」

撮影:田中亜紀

難解な不条理劇と評される本作だが、このシリアスな設定に反比例するように、懐メロを中心とした明るい洋楽を背景に登場人物が口パクで歌い踊る、まるでミュージカルのようなパートすらある。

舞台「Medicine メディスン」
舞台「Medicine メディスン」

撮影:田中亜紀

メアリー1を演じる奈緒は、膨大なセリフを操り、担当する「役」を老若男女問わず次々と乗り換え、その度に演技プランを変えていく。そしてメアリー2と目的を同じくする役割であるはずの彼女が、実は葛藤を抱え、「役者」に徹することに抵抗を感じていることが透けて見えてくる。

「役」と自分の間に揺れる本音が、目線から、指先から、漏れ出ているのを感じさせる奈緒の演技もまた、やはり「芝居」である。本作は、そうしたメタ構造自体を存分に利用している。奈緒という、なんでも器用に自分の役にしてしまう天性の「俳優性」をもつ自身のキャラクターすら、物語の一部として機能してくるのだ。

舞台「Medicine メディスン」
舞台「Medicine メディスン」

撮影:田中亜紀

対する田中は、眼の前で再現される忌まわしき「過去」を、まるでいま起きている現実のごとく受け止める。そして時間軸が薄れゆくなか、もともとは作家志望だったというジョン自身の人生、そして気持ちのありようが、自身の声で語られた「物語」として客体化していく。これらすべてを受け止めおののく芝居こそ、田中圭の真骨頂。彼がこの場所においてこんな扱いを受けるならば、誰だって同じだろう――そう信じさせる普遍性が、彼の演技には漂っている。

支える共演者もまた魅力的だ。メアリー2を演じた富山えり子は、強烈なキャラクターで場を支配するうえ、役の抱える密かな葛藤も繊細に描出する。「ドラマー」役の荒井康太は伝統太鼓の奏者として活動する本業人。芝居に合わせたアバンギャルドなドラミングで、3人の間のただならぬ緊張感を浮き上がらせる。

なぜこの施設では演劇療法(のようなこと)をしているのか。それは本当にジョンの「治療」なのか? メディスン(薬)とはなんなのか?――劇作家はこれらさまざまな問いに、明瞭な答えを導くことはしない。だがこの芝居にほぼ即興で伴奏するドラマーのように、結末まで共に走り抜けた時、うち棄てられた人々に向けられた温かな眼差しが心を包み込むだろう。そして劇中の田中圭、奈緒ら俳優陣の圧倒的な演技も堪能してほしい。

文=magbug

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放送情報【スカパー!】

舞台「Medicine メディスン」
放送日時: 9月29日(日)19:00~
チャンネル: 衛星劇場
※本編終了後には、田中圭、奈緒、富山えり子のアフタートークも放送
※放送スケジュールは変更になる場合がございます

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