南野陽子が女優の新たなステージに踏み出した気概と、それに応えた西田敏行の名演技に注目の映画「寒椿」

10月に急逝した名優・西田敏行。西田といえば、シリアスからコメディーまで、作品問わず役ごとに存在感を放つ稀有な役者で、彼を尊敬してやまない同業者も多かった。代表作も多く、その活躍は「第12回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞」「第17回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞」といった映画賞の受賞だけに止まらず、2008年に紫綬褒章、2018年に旭日小綬章を受章し、エンタメ界のみならず日本文化の発展に貢献した偉大なる人物だ。

陰のある雰囲気で抱擁する岩伍(西田敏行)
陰のある雰囲気で抱擁する岩伍(西田敏行)

(C)東映

彼の魅力といえば圧倒的な演技力に他ならないが、コミカルな役で観客をとことん笑わせたかと思えば、人情物では思いっ切り泣かせ、ヤクザ映画では震えあがってしまうほどの恐怖を植え付け、そして二枚目の役ではカッコいい大人の男性として魅了してくれ、"変幻自在"という言葉がぴったりとはまる役者だ。そんな中で、大人なカッコよさを存分に味わわせてくれる作品の一つが映画「寒椿」(1992年)だろう。

同作品は、宮尾登美子の同名小説を降旗康男監督が映画化したもので、昭和初期の高知の色街を舞台に、男女が織り成す恋愛模様を格調高く描いた文芸ロマン。かつて任侠の世界にいたが、今は芸妓を店にあっせんする仕事をしている岩伍(西田)の元に、かつて彼の息子・健太郎(西野浩史)が家出をした際に世話になった、貞子(南野陽子)という美しい娘が身売りされてくる。貞子は岩伍の口利きで、源氏名「牡丹」として妓楼・陽暉楼の座敷に出るようになり、たちまち店で一番の売れっ子となる。やがて侠客や財閥の御曹司などの男性たちから貞子は惚れられるようになるが、実は貞子が心から慕っているのは岩伍だけだった、というストーリー。

タイトル「寒椿」のとおり、 "咲いたと思ったら落ちる花"のような貞子の半生を描いており、男たちの欲望に振り回された可憐で美しい女性の悲しい物語なのだが、貞子役の南野陽子は初の濡れ場に挑戦するなど、体当たりの演技を披露しつつも、男たちの欲望を当てられて心が荒んでいく中でも可憐さと儚さを損なわない見せ方で貞子を熱演。それが貞子の岩伍へのピュアな思いともリンクして、「叶わない思いを諦めなければならない。でも、忘れることはできない」という切ない恋心を鮮明にしており、観る者は貞子の悲恋に涙を誘われてしまう。

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放送情報【スカパー!】

寒椿
放送日時:12月6日(金)18:00~ 
放送チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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