■奔放だが冷静な末っ子ならではの複雑な感情を広瀬すずが表情豊かに体現
そんな三者三様の姉たちを見て育ったフリーターの咲子は、勝手気ままで物言いもストレートだが、どこか憎めない...天真爛漫な広瀬のイメージにピッタリの役どころ。
父の不倫という緊急事態に慌てふためく姉たちに対し、冷静に家族を眺めており、父や母にも変わらず接する姿はいかにも末っ子。その一方で、不自由のない暮らしを送る姉たちに無名ボクサー・英光(藤原季節)との同棲を言い出せないなど、お気楽に見えて引け目も抱いている。
風吹ジュンが演じたオリジナル版では英光の成功や失敗に人生を左右される女性として描かれていたが、「海街diary」(2015年)、「三度目の殺人」(2017年)に引き続き三度目のタッグとなる是枝監督は、広瀬のイメージを基に、発破をかけて男を成功へと導くような自発性のあるキャラクターへと咲子をアップデート。
英光のある裏切りに怒りを爆発させる鬼気迫る表情やボクサーをパートナーに持つ不安がにじみ出た眼差しなど、広瀬は強さと弱さを併せ持った咲子の内面を情感たっぷりに表現している。
■4人の女優の演技合戦で紡がれる、いがみ合い笑い合う家族像
異なる個性を持つ女性たちゆえに姉妹であっても互いのことを理解できず、歯に衣着せぬやりとりも満載。特に正反対な滝子と咲子は互いを「堅物」「ふしだら」と罵り合う始末だ。
しかし、いがみ合った次の瞬間には、思い出話に花を咲かせ、笑い合っている。実に不思議な家族というものを4人はナチュラルに体現。それぞれの絶妙なバランス感覚で成り立つ会話や関係性は見ていて心地よさすら覚えてしまう。
時代背景やキャラクターの設定などはオリジナル版から大きく変わらないが、さりげないセリフや描写を足し入れ、向田脚本の妙味を残しつつも、今見ても違和感のない作品へとアップデートした「阿修羅のごとく」。そんな意図を汲み取った女優たちの骨のある演技合戦は見応え抜群だ。
文=HOMINIS編集部
<配信情報>【Netflix】
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