昨年のドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」や「海に眠るダイヤモンド」での好演も記憶に新しい杉咲花。記憶障害を抱える脳外科医という難役にも、食堂の看板娘・朝子の切ない生き様にも、自然体で溶け込んでいた。キャラクターの心の動きが自然と伝わる演技ができる稀有な俳優の一人だ。

4月4日(金)には、広瀬すず、清原果耶と共にトリプル主演を務める「片思い世界」が公開を控えている。ロングランを記録した映画「花束みたいな恋をした」(2021年)の脚本家・坂元裕二と監督・土井裕泰が再びタッグを組んだ作品だけに、新たな名作誕生に期待が高まっている。

ドラマ、映画と話題作への出演が相次ぐ杉咲だが、昨年の活躍として忘れてはならない作品が「52ヘルツのクジラたち」(2024年)だ。3月1日(土)にＷＯＷＯＷシネマで放送される本作は、2021年本屋大賞に輝いた町田そのこの同名小説を原作にしたヒューマンドラマ。人間の光と影を見つめ続ける成島出が監督を務め、杉咲を主演に迎えて映画化された。

東京から海辺の街の一軒家へ移り住んだ貴瑚は、母親に虐待されて声を出せなくなった「ムシ」と呼ばれる少年と出会う。かつて自分も虐待され搾取されてきたことから、彼を見過ごせず一緒に暮らし始める貴瑚。やがて夢も未来もなかった少年に、たった一つの願いが芽生える。その願いを叶えることを決心した貴瑚は、自身の声なきSOSを聴き、救い出してくれた青年・安吾とのかけがえのない日々に想いを馳せる...。

杉咲が演じるのは、心に傷を抱えた主人公・三島貴瑚。虐待されている少年と出会った貴瑚は、彼の声なき声に耳を傾け、優しく寄り添う。自然な佇まいでいながら、その声や小さな背中に、孤独や静かな怒りを滲ませている。

次第に彼女が抱える傷や過去が明らかになっていくが、母親から虐待され追い詰められていた貴瑚が子どものように泣きじゃくる姿にまず圧倒される。あまりにも真に迫った熱演に、物語の世界に引き込まれた。安吾と出会い、暗かった瞳に光が差し、少しずつ変化していく様も繊細に表現。覚悟を決めた眼差しの強さに、彼女が受け取った優しさと愛の大きさを感じさせる。