1970年代から80年代にかけて、大映テレビ制作のドラマがTBS系でヒット作を連発した。山口百恵主演の「赤いシリーズ」をはじめ、堀ちえみ主演「スチュワーデス物語」や伊藤麻衣子主演の「不良少女とよばれて」などが強烈なインパクトを残して高視聴率を記録。1985年に放送開始された「ポニーテールはふり向かない」も代表作のひとつで、伊藤かずえが主演した。伊藤は大映ドラマの常連だが、ヒロインのライバル役が多く、本作は彼女の初主演作でもある。

非行少女だったヒロインの未記(伊藤かずえ)が、迫害と闘いながらドラマーとして仲間とバンドを結成し、挫折しながらも自分の道を切り開く物語だ。メンバーたちもそれぞれ問題を抱えながら、一流のロックバンドを目指す感動のストーリーで、同じ土曜21時枠の名作「スクール・ウォーズ」の音楽版といったテイストである。3歳で母親と別れた麻生未記(伊藤かずえ)は、非行を繰り返した挙句女子少年院に送られる。18歳の時に父の雄次(フランキー堺)が事故で他界。雄次はかつてジャズドラマーとして名を馳せ、未記にもドラムを教えたが、ロックの時代に馴染めずにドラムを捨てた。以降一家は貧困生活に陥り、母は家出。未記も非行に走ったのだった。

少年院を出た未記は、再び不良の世界に舞い戻ったものの、自分にはドラムしかないと気づき、世界一のロックバンドの結成を誓う。父の友人・小野(下川辰平)の支えで、彼がマスターをしているライブハウス「フロンティア」で働きながら、ボーイの田丸晃(松村雄基)の協力を得て、バンドメンバーを探す。メンバー探しの過程で、未記は男女の愛や、様々な人間の栄光と転落の軌跡を経験しながら成長していく。未記の成長物語であると同時に、晃や曲者の医大生・名倉邦男(鶴見辰吾)との恋のさや当て、さらに後に登場するバンドメンバーたちもそれぞれ葛藤や問題を抱え、多くの人生が交錯する若者たちの群像劇でもある。

音楽シーンが最大の見せ場であり、伊藤も1ケ月間ドラムを猛特訓して撮影に臨んだが、練習期間が前作の「乳姉妹」の撮影と重なって大変だったそうだ。オンエアでは、いわゆる「当て振り」で、プロが演奏した音源を使うが、動きと音を合わせるために実際に演奏しているのと同じ動きをする必要があり、しかも叩きながらセリフを言う場面もあるので、相当苦労したらしい。キーボード担当の松村以外に、後に登場するバンドメンバーは、牧村稔(坂上忍・ベース)、脇田克己(野々村誠・ボーカル)、羽川令子(かとうゆかり・ボーカル)、霧島航(国広富之・サックス)、狩野弘(宮田州・ギター)といった面々。歌手が本職のかとう以外は、伊藤同様にそれぞれ楽器を特訓したようだ。野々村の歌声もなかなか聴かせてくれる。
　
大映テレビ作品らしく、主人公が元不良娘とあって乱闘シーンも見せ場になっている。伊藤がドラムスティックを武器に闘う場面は、ややコミカルな感じもするが凛々しくてカッコいい。松村や鶴見らは大映テレビの常連俳優でもあり、この手のアクションシーンはお手のもの。松村演じる晃はニヒルな二枚目役だが、妹の絵美子(高橋かおり)を大切にしていて、終盤では妹が大病を患って苦悩する展開となり、泣きの演技で魅了する。鶴見演じる邦男は、冷酷な野心家。貧乏育ちゆえに金持ちを嫌い、富豪の女性を食い物にする嫌みな男だが、次第にいい人の一面を覗かせる。最後はギタリストとしてバンドに加わるなど、見せ場の多い役どころを好演。伊藤とは「乳姉妹」に続く共演で息もピッタリだ。ちなみに松村とも同作で共演していた。

他の共演者には、未記の実母で再婚して裕福な家に住む飯倉明子役の梶芽衣子、坂上演じる稔と不倫関係になる人妻・矢崎妙子役の片平なぎさ、フロンティアのオーナー・佐田役の松崎しげる、フロンティア専属歌手で国広演じる霧島の恋人・千葉かおる役の岡田奈々らがそれぞれ好演。各人物に様々なエピソードが盛り込まれ、ドロドロした展開になるので毎回目が離せない。未記たちが結成したバンド、「ザ・バンテージ」は、紆余曲折を経て注目を集め、一大イベントの「オールジャパン音楽祭」に挑戦するべく奮闘する。最終盤で未記の身に最大限の不幸が訪れるなど、出場まで様々な事件が起こり、最後までやきもきさせるが、果たしてエンディングは...。音楽シーンを中心にドロドロな人間ドラマの連続で、最終回まで視聴者をまったく飽きさせない「ポニーテールはふり向かない」。伊藤かずえをはじめ、俳優陣の奮闘も素晴らしく、当時子役として活躍していた高橋かおりの演技も胸を打つ。今見ると、あまりにも昭和的な演出に笑ってしまう場面もあるが、感動に溢れた元気になれる作品なのは間違いない。

文＝渡辺敏樹