全国合唱コンクールが終わったある日、聡実(齋藤)は突然、狂児(綾野)に「カラオケ行こ！」と誘われ、カラオケボックスで名刺を渡される。狂児は、組で毎年開催されるカラオケ大会で最下位になると大変な目に遭うことを、聡実に懸命に説明。聡実は帰ろうとするものの引き止められ、聴かされたのが「紅」だ。

ジャケットを着て、歌う前に発声練習までする狂児の姿に聡実はうなだれ、途中で絶叫やヘドバンまでする狂児に一瞬は驚きながらも、チャーハンを淡々と食べる。真剣な顔で感想を聞かれるとバッサリとダメ出しをする。そして、カラオケボックスに忘れ物をしたことをきっかけに、聡実の最後の中学生活は狂児に翻弄される日々となる...。

■思春期の少年を見つめる狂児の心中を綾野がハートフルに表現

これまでにも「ヤクザと家族 The Family」などでヤクザ役を演じてきている綾野だが、その中でも、中学生からもらった合唱部の手引きをバイブルのように真剣に読み込む狂児は、名前に反して実にチャーミングだ。カラオケの練習帰りには、聡実に家に着いたらLINEをするように言ったり、危ないから組がある商店街には近付かない方がいいとアドバイスしたりと、「真面目か？」とツッコミを入れたくなる。

聡実も徐々に狂児に興味を持ち、やがて、家族に言えない悩みを打ち明けるようになる。思春期の敏感さで、時には狂児に対しても感情を抑えきれなくなる聡実。兄のように聡実のことを想いながらも、これ以上は距離を詰めてはいけないと理解している故の狂児の切なさを、綾野は視線に感情を宿す演技で表現。

そして偶然にも、3年生最後の「合唱祭」と、組の「カラオケ大会」は同じ日に開催されることに。笑いあり、涙ありの想像を超える展開にドキドキしつつ、綾野が見せる新たな顔に惹きつけられる作品だ。

文＝山本弘子