綾野剛×柴咲コウ『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』初共演で築いた信頼関係

俳優

17
映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』左から柴咲コウ、綾野剛
映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』左から柴咲コウ、綾野剛

──今作では、視点の切り替わりが作品の軸になっています。お二人はその"見え方のズレ"をどう表現されたのでしょうか

綾野「ある種の"演じ分け"はしていません。二重人格という事ではなく、同一人物である事が大切で、声の質感も大きな変化を取り入れず、言葉の取り扱い方が異なる、という事を意識しました。言い回しといいますか。もうひとつは、お互いの受け取り方のズレです。例えばあるシーンで舌打ちする描写があるのですが、律子にとっては違和感や嫌悪に見える。でも薮下にとっては『今川焼きが歯に詰まっていただけ』なんです。それくらい、細部にまで"ズレ"が潜んでいる。その絶妙な違和感の連鎖が、物語をより深く濃くしていくのだと思います」

柴咲「私は"視点が変わったから演技を変える"というよりは、律子自身がずっと同じことを信じているという前提で演じていました。もし供述が事実と異なっていたとしても、彼女にとってはそれが真実なんですよ。だから、演技のトーンも基本的には変えていません。ただ、観客がそれをどう受け取るかはまったく別の話で、そのズレが面白いとも思います」

──三池監督との現場はいかがでしたか?

綾野「三池さんは"答えを作らない"監督です。役の生き方をフレキシブルに受け止めてくださり、微かな変化にも気づいてくれます。その眼差しが温かく、とても鋭い。その寒暖差がとても心地よかったです」

柴咲「三池監督は決して多弁ではないけど、ちゃんとすべて見ているんですよね。裁判のシーンでも、どこにも感情移入しないように中立の視点で撮影されていて。それがかえって不気味で、どこかドキュメンタリーを観ているような感覚にもなりました」

──三池監督から印象に残っている言葉や、特に心に残っているやり取りがあれば教えてください

綾野「監督が『面白いものができたよ』ってぽつりと言ってくださって。それだけで、全てが報われたような気持ちになりました。三池さんは多くを語らない。でもそのぶん、一言がすごく重くて」

柴咲「私もそう思います。『あ、今のOK』とかも、本当に必要なときしか言わない。逆に"何も言わない"ときの信頼感というか、任せられているんだなという安心感がありましたね」

綾野「初めての三池組から17年を経て、またこうして一緒に作品を紡ぐ事ができたことに感謝ですし、続けてきて良かったと、心から思います」

──撮影現場でのエピソードについてもぜひお聞きしたいのですが、特に印象に残っている瞬間や、今でも思い出される場面はありますか?

綾野「柴咲さんとの家庭訪問のシーンです。あの場面が全ての始まりです。芝居的に言えばテーブルトークなのですが、律子さんのリズムと気迫の凄みをそのまま体感してしまい、終わったあとしばらく呆然としてしまって。芝居の中で、理屈じゃなく"気圧される"という感覚を久しぶりに味わいました。たとえるなら、会話をしているつもりが、気づいたら全身を使って格闘していたような。あのテーブルを挟んでのシーンは、お互いの間合いや呼吸を"削り合う"ような緊張感があって、何度やってもゾクゾクしました」

柴咲「私は、教頭先生たちとのやり取りも印象的でした。あの校長室の空気って、どこか現実っぽさがあって、『こういう人、いるよね』って思わせるような絶妙な圧があったんですよ。撮っているときも『これは絶対、観ている人もモヤモヤするな』って(笑)。それが逆に心地よかったです」

──今回の役作りにあたって、衣装やビジュアル面でのこだわりはありましたか?

柴咲「髪をすごく伸ばしました。とにかく"重さ"がほしかったんですよね。実際、髪がツヤツヤで長くなると、律子としての立ち居振る舞いが変わるんです。あまり表情を動かさず、髪が顔にかかる瞬間ですら感情を伝えるような、そういう"静の演技"に向いている外見にしたかった」

綾野「僕は"平易さ"です。薮下という人物が持つ"普遍的な日常"を大事にしたくて。だからこそ、彼が置かれた状況の異常さが際立つと想像できました」

──最後にこの作品を通してお客さんには何を感じてほしいですか?

柴咲「人って、自分が見たいように世界を見ているんだとあらためて思わされる作品でした。そして、それがいかに危うくて、同時に避けられないことか。だからこそ、この作品を観て『あなたはどう思った?』と誰かと話してもらえたら、それが一番嬉しいです」

綾野「本作を存分に楽しんでください。ヒューマンからホラー要素まで、あらゆるジャンルのアンサンブルでもあり、それぞれの生き様をエンタメに昇華した三池崇史監督最新作です。その上で、ご自身の目で見て、足で立って、判断された事が、観た方それぞれの"物語"として心のどこかに残して頂けたなら、これ以上ない喜びです」

取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI

この記事の全ての画像を見る
  1. 1
  2. 2
  1. 1
  2. 2

映画情報

『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』
6月27日(金) 全国公開
原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
出演:綾野剛、柴咲コウ、亀梨和也、大倉孝二、小澤征悦、髙嶋政宏、迫田孝也、安藤玉恵、 美村里江、峯村リエ、東野絢香、飯田基祐、三浦綺羅、木村文乃、光石研、北村一輝、小林薫
監督:三池崇史
©2007 福田ますみ/新潮社 ©2025「でっちあげ」製作委員会

詳しくは
こちら

Person

関連人物