磯村勇斗と岸井ゆきのの演技に胸をえぐられる...苦悩に侵蝕された若者の空気感を体現した「若き見知らぬ者たち」
俳優

(C)2024 The Young Strangers Film Partners
行動障害を伴う病の母・麻美(霧島れいか)は家の中での生活もままならず、外に出れば問題を起こしてしまう。しかし、そんな母に対して彩人は声を荒げたり、怒ったりしない。部屋やキッチンなど家の中をカメラがゆっくりと追い、だからこそ、その惨状が伝わってくる。朝から夜まで働き、ギリギリの生活の中で借金を返している上に、母の面倒も見る。そんな重圧が彩人に重くのしかかる。
優しさと真面目さ故に背負い込んでしまい、自分自身が削られていく彩人を、磯村は湿気がまとわりついているようなじっとりとした空気感で表現。髭を伸ばした顔の表情は乏しく、その目には生気がないが、時折、飢えているようなギラついた視線を覗かせる。感情、欲望を無意識に押し込めてしまっているが故に切なく、社会に助けを求めることも諦めてしまっている青年の在り方自体が、本作が投げかける問いかけとイコールになっている気がしてならない。
■主人公を取り巻く人々、それぞれの立ち位置
抑制した演技で惹きつけるのが磯村と岸井だ。夜勤続きで疲れている日向を気遣う言葉をかける彩人に対して「それ、彩人が言うこと?」と返す日向のセリフが、普段から彼を心配していることを物語る。日向は彩人に余裕がないことを知っているから笑顔を作る。そんな彼女を演じる岸井は、役の中でも芝居をしているのだ。

(C)2024 The Young Strangers Film Partners
一家と違う立ち位置にいるのが、彩人のサッカー部時代の親友・大和(染谷将太)。子供が生まれたばかりの大和は、彩人の事情を詳しくは知らないものの、彩人を気にかけている。凄惨でやりきれないある事件が起きた時も、1人で警察に乗り込んでいく。彩人が働くバーを訪ね、旧友同士ビールで乾杯するシーンは、息苦しさをひととき緩和する酸素のようだ。
そして、1年間のトレーニングを受けて撮影に臨んだという福山。彼が演じる壮平は、兄に起こった出来事でぐちゃぐちゃになりながらもタイトルマッチに挑む。そんな壮平を福山が熱演している。
ヘビーな内容で、観る者の心を波立たせる本作。その姿が映っていない場面でも、磯村の芝居は最後までスクリーンに存在感を残す。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
若き見知らぬ者たち
放送日時:2025年6月6日(金)12:55~、7月10日(木)6:45~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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