7月からスタートするドラマ「初恋DOGs」で主人公と恋愛模様を展開する獣医役に起用された成田凌。10月からはBunkamuraの舞台「リア王」にも出演が決まり、リア王の長女と次女を誘惑する野心家エドマンドをどう演じるか、期待が高まる。

着実にキャリアを重ね実力を磨いている成田だが、彼の俳優としての現在地が分かる作品が主演映画「雨の中の慾情」(2024年)だ。6月22日(日)にＷＯＷＯＷシネマで放送される本作で、成田が体当たりの熱演を見せている。

監督を務めるは、「パラサイト 半地下の家族」(2019年)のポン・ジュノ監督のもとで助監督として研鑽を積み、商業監督デビュー作「さがす」(2022年)や国内外で高い評価を得た「ガンニバル」(2023年)などセンセーショナルな作品を次々と制作してきた片山慎三。原作となるのは、「ねじ式」や「無能の人」などで知られ海外でもカルト的な人気を誇る伝説の漫画家・つげ義春による同名短編漫画だ。

異端作の映画化という挑戦にあたり、「ドライブ・マイ・カー」(2021年)で濱口竜介監督との共同脚本を務めた大江崇允も脚本協力で参加し、片山監督と「ガンニバル」に続いて再タッグを組んだ。絵コンテのまま発表されたシュルレアリスム作品をベースに、独創性溢れる数奇なラブストーリーを生み出している。

貧しい北町に住む売れない漫画家の義男。古いアパートの一室に暮らす彼は、ある日、大家に頼まれて引っ越しの手伝いに駆り出される。そこで部屋に全裸で寝転ぶ女性・福子と出会い、最近離婚したばかりだという彼女に心を奪われてしまう。

やがて彼女は、一緒に引っ越しの手伝いをした自称小説家の伊守の愛人になり、ほどなくして義男の部屋に2人そろって居候として転がりこむ。彼女への思いを抱える義男と愛人関係にある福子と伊守、男女3人の奇妙な同居生活が始まる...。

成田が演じる義男は、一筋縄ではいかない難役であることが窺える。義男は衝撃的な出会いから、思わずスケッチしてしまうほど美しい肉体に福子という人間そのものに惹き込まれていく。戸惑いや嫉妬、苛立ちと欲情、そして絶望。成田がの怪演が話題となった「スマホを落としただけなのに」シリーズでのサイコキラー役とは違って、彼の感情は剥き出しだ。

レトロな町並みが多い台湾中部でオールロケを敢行した幻想的で独特な世界観の中で、成田はどこか不自由で寂しげな男を生々しく存在させる。物語は後半からまったく異なる方向へと転換していくが、義男は福子を一途に思い続ける。奇妙でシュールな世界の中でも、切なくも確かな佇まいで存在感を増し、現実と妄想を行き来しながら、時にどこか寂しげにこちらを見つめる瞳が印象的だった。