北村匠海×林裕太×綾野剛 映画『愚か者の身分』を経て考える"幸せ"ということ
俳優
――それぞれ演じられた役柄について、第一印象やご自身との共通点はありましたか?
北村「タクヤには、どこか"浮遊感"があると思っています。気づくといなくなってしまうような儚さをまとった存在で、でも実際は楽しんで生きているだけで、いなくなるつもりはない。マモルや梶谷の目にタクヤがどう映っていたのか、本当に捉えきれていたのかはわからないけれど、視力を失って視界が見えない中で、自分の存在を証明してくれる"声"のような誰かの存在を感じながら演じました」
林「マモルは生まれ育った環境や理不尽な運命に抗おうとする強さがあるキャラクターです。僕自身も理不尽なことには敏感で、流せない性格なので、そこは似ているかもしれません。ただ、年齢を重ねるごとにしょうがないと受け流す自分に嫌気がさすこともあって...。マモルが"人生を楽しもう"と変化していく姿も、とても素敵だと感じています」
綾野「梶谷は、2人を前にして、一番"生きる実感"を与えられた人物です。役を通じて呼吸の仕方を思い出すような感覚を味わいました。役者は役を愛し、理解者であることが大切だと改めて感じました」
――本作では現実社会の問題や「幸せのかたち」についても描かれていますが、みなさんが"幸せ"を感じる瞬間はどんなときですか?
林「僕は今24歳で、地元にずっと暮らしているのですが、今も中学の同じ部活だった友達とよく集まっているんです。みんな社会人3年目ぐらいで、それぞれ忙しいのですが、週末になると特に目的もなく集まって、ただ近況を話したりするだけの会が定期的にあって。お酒を飲むわけでもなく、ただ喋るだけ。でも、その時間が一番、素の自分に戻れて、幸せを感じます」
――そういう関係性は少し憧れるところもあります
林「僕自身、そういう友達に支えられていると感じます。特にコロナ禍で人と関わる機会が減って孤独を感じたとき、ずっと一緒にいた友達がそばにいてくれたのが、本当に大きな励みになったんです。そういう仲間がいることが、自分が頑張れるモチベーションになっています」
北村「最近、僕が幸せだと感じるのは"理解されること"だなと思うようになりました。今までは"自分を表現する喜び"のほうが先に立っていたのですが、今は自分の表現だけでなく、人間としての部分まで理解してくれる人がいることのありがたさを感じています。役者としても、そうやって理解されてはじめて肯定される感覚がある。例えば、どんな役にも背景があると思うんです。その背景まで理解しようとすることで、自分もそのキャラクターを肯定できるようになる。今、裕太が話していたような地元の友達もそうですし、そういう存在からは絶対に目をそらしちゃいけないなと、改めて思っています。それが、今一番感じている幸せです」
綾野「幸せはある種の"刺激"なのかもしれません。ぼんやりと抽象的で、どこか遥か遠いもののようでもあり、心を確かに強く揺さぶる瞬間の連続ともいえます。この2人と一緒に作品を作ったこと、現場で感じる一つひとつの丁寧な時間、今日この取材の場で2人からもらう刺激もすべて、僕にとっては大きな幸せです。林くんが友達との話を楽しそうにしてくれたり、匠海の考える信念を聞けて、理解されることや誰かを理解しようとすることもまた一つの"刺激"なんだと。その刺激の一つひとつが芝居の神経をも形作っていく、とても大切なプロセスです」
北村「幸せを"刺激"と感じられるのは、大人になった証拠かもしれないですね。思春期の頃って、幸せであることを素直に肯定できなかったり、むしろ痛みや刺激を求めてしまったりする時期が誰にでもあると思います。でも、年齢を重ねていくうちに、その"痛み"の記憶にもう一つ何かが加わって、"幸せ"がやっと感じられるようになる。その両方を知ることで、今の自分があるんじゃないかな、と。剛さんと今こうして話していることも、すごく通じるところがあると思いました」
綾野「実際に現場で目の前で芝居を受けていることが、幸せでした。林くんの芝居も、もっと近い距離で体感してみたいですね」
――最後に、ご覧になる方へのメッセージをお願いします
綾野「この映画は、三者三様の生き方が詰まったヒューマンドラマであり、サスペンスでもあります。3人の男が"どう生きるか、どう生き抜くか"を描いています。ぜひ映画館で『愚か者の身分』という作品を存分に浴びていただきたいです。映画館という空間で、たくさんの方が何かを受け取っていただけたら幸いです」
林「この作品から受け取るものは、絆だったり誰かの役に立ちたいという思いだったり。現実を見すぎて理想を諦めるのではなく、理想を持ち続けて生きることの大切さを、素直に受け取ってほしいです」
北村「一言で『こういう映画です』と言い切れないほど、人生そのものを描いた作品です。現実はときに厳しいけれど、エンタメは逃げ場にもなりうる。映画館という空間で、『愚か者の身分』を観て、何か一つでも持ち帰れるものがあったら、それが正解だと思います」
取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
【北村匠海】
ヘアメイク=佐鳥麻子 スタイリスト=TOKITA
【綾野剛】
ヘアメイク=石邑麻由 スタイリスト=佐々木悠介
【林裕太】
ヘアメイク=佐々木麻里子 スタイリスト=ホカリキュウ
公開情報
映画『愚か者の身分』
2025年10月24日(金)より全国公開
監督:永田琴
脚本:向井康介
出演:北村匠海、林裕太、山下美月、矢本悠馬、木南晴夏/綾野剛
原作:西尾潤「愚か者の身分」(徳間文庫)
(C)2025 映画「愚か者の身分」製作委員会
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