若き西島秀俊の怪演ぶりが新鮮!哀川翔もクールな演技で魅せる 映画「冷血の罠」
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本作の前年に公開された黒沢清監督の「CURE」(役所広司主演)を思わせるようなサイコ・ミステリー映画であり、どことなく黒沢清作品に通じるドライな作風を感じさせる。余談だが、1999年公開の黒沢清監督作の映画「ニンゲン合格」は、西島が主演して哀川が共演している。人間の内に潜む狂気を淡々と描きつつ、後半でそれが発露する場面の恐ろしさ。ただ、瀬々監督はそれをあくまでドライに描き出し、何とも不気味な映像が印象に残る。ザラついたフィルムならでは質感の画面が独特で、まだ昭和の面影を残していた平成初期の時代の空気をしっかり伝えてくれるのもいい。
デジタルでは表現できない、粗いフィルムだからこそ捉えられる時代の空気感は、今見るとむしろ新鮮だ。劇中では、花園から藤原に届けられるビデオ映像が重要な小道具になっているのだが、あまりにも暗過ぎて不鮮明だ。しかしそれが却ってリアルであり、作品の持つ不気味さが増長される。
登場人物たちがバタバタと死んでしまう後半の展開も衝撃的だが、狂気に支配された人間をドライに描いているだけに、恐怖と迫力が増す。他の共演者では、後年に「六月の蛇」(2002年)、「嫌われ松子の一生」(2006年)「冷たい熱帯魚」(2011年)などで花開く黒沢あすか、当時は無名で後に名バイプレーヤーとなる田中要次も出演。また、瀬々監督とも縁が深いピンク映画の名優・下元史朗、同じくピンク映画出身の川瀬陽太らも顔を見せている。
30代後半当時の哀川翔のクールさも大いに魅力だが、今のイケオジの姿からは想像しにくい、若き西島秀俊の怪演ぶりを楽しめるだけでも価値のある映画「冷血の罠」。90年代の渋谷の空気をリアルに伝える映像としても貴重な作品だ。ピンク映画時代の瀬々監督のドライな作風を、粗いフィルム映像の味わい深さと共に堪能してほしい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
冷血の罠
放送日時:2025年9月9日(火)23:10~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
出演:哀川翔、西島秀俊、黒沢あすか、下元史朗、田中要次、朝岡実嶺
※放送スケジュールは変更になる場合があります。
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