初めての一人暮らしに高まる期待と不安を胸に上京してきた大学生を、松は初々しくも堂々と演じている。「明るい性格」と自己紹介しながらも人見知りからか緊張を隠せない引っ込み思案な新入生は、20年以上を経た今にもいそうなリアルさだ。モノローグでの幼さを残す心地良い美声も耳に残る。

少しずつ成長していく卯月の表情の変化、先輩への恋心や浮き沈みする気持ちを松は自然体で見せる。当時まだ20歳前後だった松の瑞々しさと青さ、可憐な愛らしさが、ドキュメンタリーのように映し出されていた。

また、冒頭のシーンでは、父・松本白鸚(当時の九代目松本幸四郎)や兄・松本幸四郎(当時の七代目市川染五郎)も、まだ雪の残る北海道で家族と別れる一コマでカメオ出演している。思いを寄せる先輩・山崎役の田辺や劇中劇で織田信長役の俳優を演じた江口洋介など、名優たちの若き日の姿も楽しめる。

大学生の日常と青春を爽やかに綴った60分強の中編作。ノスタルジックで美しい岩井俊二ワールドの中で、松はヒロイン同様に成長し可憐な魅力を開花させていく。当時からすでに大女優への片鱗を確かに感じさせる、好演を見せた。

文＝中川菜都美