しかし、天賦の才の一方で、心を閉ざし、闇を抱えていた。その心の闇は異形の"鴉の化身"として現れ、芸術家への道を容赦なく説いて、彼を翻弄する。愛するものと人のすべてを仕事に引きずり込んでしまう昌久。鴉との対話は独り言にも見え、武器のごとくカメラを構える。

我が子の亡骸にもカメラを向け、酒に溺れて父親と殴り合い、最愛の妻でさえ傷つけてしまう。写真に憑りつかれ、撮ることでしか愛する方法を知らなかった昌久。その生き方は豪胆でワイルドながら、すぐ横の闇にするりと堕ちてしまいそうな危うさがある。狂気と純粋さを合わせ持つ一人の天才の光と闇を浅野が繊細に演じており、彼にしか出せない生々しい人間らしさに惹き込まれていく。

狂気、愛、ユーモアが混在する唯一無二の写真を撮り続けた深瀬昌久。その波乱に満ちた人生を、浅野が心揺さぶる演技で体現した。

文＝中川菜都美