鈴木京香×山﨑努が繰り広げるいびつな関係性...2人の圧倒的な演技力に引き込まれる映画「こおろぎ」

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愛憎の淵で、むき出しの生命力が交差する青山真治監督作品「こおろぎ」は、その特異な美学と哲学によって、公開から時を経てもなお、観る者に強烈な印象を残し続ける異色作だ。監督は、「EUREKA(ユリイカ)」(2001年)で第53回カンヌ国際映画祭の国際批評家連盟賞とエキュメニック賞をW受賞しており、その独自の映像美とテーマ性で国際的にも評価が高い。そんな青山監督の才能が、俳優たちの凄まじい熱量とあわさって結実した傑作「こおろぎ」が2025年11月4日(火)23:30から日本映画専門チャンネルにて放送される。

■西伊豆で繰り広げられる歪な人間ドラマ

鈴木京香と山﨑努の圧倒的演技力で繰り広げられるいびつな関係性
鈴木京香と山﨑努の圧倒的演技力で繰り広げられるいびつな関係性

舞台は、荒々しくも美しい自然に囲まれた西伊豆の海辺。そこにひっそりと建つ家で暮らす、1組のワケあり男女。女は妖艶な魅力を放つ女性・かおる(鈴木京香)、そしてもう一人は、目が不自由で口もきけない男(山崎 (※「崎」は正しくは「立さき」)努)だ。彼らの生活は、世間から切り離されたように静か。かおるは男の世話をかいがいしく焼くが、その顔に浮かぶのは、献身とは少し違う、どこか優越感に浸っているようにも見える笑みだ。「それは慈しみなのか、それとも一種の快楽なのか...」。

この2人の関係性はまさに共依存で、一方がなければ他方が存在し得ない、危ういバランスの上に成り立っている。彼らの生活の中では、日常的な会話も、明確な目的も必要とされない。ただ潮騒と風の音だけが聞こえる中、何をするでもなくゆっくりと穏やかに流れていく時間がある。この静謐さこそが、底に渦巻く激しい感情を際立たせる。本作は、そんな2人が繰り広げる純粋な愛の物語というにはあまりにも深く、そして歪な人間ドラマである。

しかし、その静寂を打ち破るのが街にあるバーだ。そこには町の人が集い、怪しい雰囲気で満ちている。店内にはミラーボールに神輿、様々な文化が混ぜこぜの異空間が広がり、日常の均衡が崩れ、異様なエネルギーが噴出する場所。そこで出会った若いカップルがこの物語を大きく動かしていく。

■作品から感じる、鈴木京香と山﨑努の圧倒的存在感

この作品の特筆すべき点は、生命の根源的な衝動の描写だ。特に、かおるが手づかみでチキンをむさぼるシーンは実にエロティシズムを帯びている。それは性的な行為を直接描かずとも、食欲という生命力を通じて、彼女の存在の根っこにある情熱をむき出しにする。観客は、目の前で展開される2人の関係を前に、「愛し合っているのか、憎しみ合っているのか」という究極の問いから逃れられなくなる。物語は、静かに、時に爆発的に、パワフルかつ繊細に描かれていく。

そして、圧倒的な存在感を見せつけた二大俳優の競演。この映画を忘れがたいものにしているのは、やはり主役2人の演技の力にほかならない。かおるを演じた鈴木京香の美貌は、その役柄の複雑な魅力を完璧に表現し、彼女の存在感が作品全体に張り詰めた空気と官能的なムードをもたらしていると言える。

一方、山崎のこの上ない怪演は圧巻の一言。台詞が一切ないにもかかわらず、その表情の微かな変化や手の動きだけで、絶望、怒り、そして依存といった複雑な感情を見事に表現しきっている。台詞を交わすことができないからこそ、2人の間に漂う目に見えない感情のやり取りが、観客の心を深くえぐり、この共依存のドラマを極上の芸術へと高めているのだ。

単なるミステリーか寓話かはたまた愛憎劇か...といった枠では収まらない、人間の業を描いた壮大なドラマ。その緊張感と不穏な美しさに、観ているこちらのゾクゾクが止まらない。

文=石塚ともか

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放送情報【スカパー!】

こおろぎ
放送日時:2025年11月4日(火)23:30~ほか
放送チャンネル:日本映画専門チャンネル
出演:鈴木京香、山﨑努、安藤政信、伊藤歩、光石研
※放送スケジュールは変更になる場合があります。

詳しくは
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