(C)1991 松竹株式会社
1991年に公開された映画「満月 MR.MOONLIGHT」は、原田康子の小説を原作に、大森一樹が監督・脚本を務めたファンタジーロマンスだ。2026年1月16日(金)に衛星劇場で放送される。主演は、時任三郎と原田知世。公開当時、時任は多数のテレビドラマや映画で活躍し、俳優として確固たる地位を築いていた。
一方の原田も、アイドル的な人気を経て、女優としてのキャリアを着実に積み重ねていた時期である。この2人が、現代へタイムスリップしてきた誠実な侍・小弥太(時任)と、ひょんなことから彼と出会う現代の高校教師・まり(原田)を演じ、時代を超えた愛の形が描かれていく。
本作の魅力は、非日常的な設定でありながら、俳優の存在感が役柄に強い説得力を与えている点にある。時任が演じる小弥太は、現代社会の常識に戸惑いながらも、その"心根の美しさ"を失わない。現代の知識や技術に疎くても、人として持つべき誇りや潔さにおいては誰にも劣らない。
■非日常な設定でも観る者を引き込む時任の演技
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時任らしい内に秘めた熱さを感じさせる眼差しが、小弥太の純粋な魂と重なり、観客は理屈を超えてその存在に引き込まれていく。小弥太の、時に無防備なほどの純粋さを映し出す表情の機微は、時任が豪胆な役柄も演じてきたキャリアの深さがあるからこそ実現した、優れた抑制の演技であるといえる。
原田が演じるヒロインのまりは、現代の忙しい日常の中で、どこか空虚さを抱える女性だ。原田特有のチャーミングで柔らかな佇まいと、自分の意思を大切にするナチュラルな演技が、まりが小弥太という"異質"な存在を受け入れ、次第に心を開いていく過程を丁寧に描いている。声のトーンや視線の動きによって微妙な心の変化を表現し、その抑揚のある演技が原田の女優としての表現力の豊かさを物語っている。
この作品で際立つ時任の"内なる力強さ"や、原田の"穏やかな佇まい"は、キャリアを重ねた現在でも彼らの俳優としての基本的な魅力として息づいている。特に原田の自然体な存在感は、その後に出演した作品でも変わることなく観客に心地よい安らぎを与えている要素だ。
一方で、公開当時と変化した点を挙げるなら、時任がその年齢やキャリアの変化とともに"大人の包容力"を伴う役柄へと表現の幅を広げていること。原田が、フレッシュな時期を経て、人生経験から来る思慮深さや知性をより深く表現するようになったことが挙げられるだろう。
■原田と時任が体現する、本質的で普遍的な愛情
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このストーリーが時を超えて人々に響くのは、2人の俳優が、"本質的で普遍的な愛情"を表現していることも大きな要因だ。私たちは日々、社会の常識という枠の中で生活しているが、小弥太とまりの交流は、知識や文化という表面的な違いを超えて、"飾らない真実の人間関係"の形を提示しているように見える。恋愛映画に見られがちな劇的な盛り上がりよりも、ある種の距離感の保ったやり取り――その踏み込みすぎない関係や言葉にしきれない感情の往復が愛おしく、観る側に解釈の余地も残している。
時任三郎と原田知世の繊細な演技が交差し、時代や常識を超えた人と人とのつながりを描き出した本作。忙しい日常の中で見失いがちな、人との向き合い方や本当に大切なものについて改めて考えるきっかけをくれる作品である。
文=川倉由起子









