
秋子が遺した家での三人の生活は朔也が知らなかった母の顔を徐々に浮き彫りにしていく。生身の人間とVFという未知の"二役"に挑戦した田中は、さすがの存在感を発揮し、元気をなくしている朔也に口笛を吹いたり、アナログレコードから流れる大好きだった曲「ラ・クンパルシータ」に合わせて昔のようにダンスしてみせたりと実にチャーミングだ。
秋子や三好に「純粋過ぎる」と言われる朔也が学生時代に起こした事件や、秋子が"自由死"を選択していた理由など、観る側もそのミステリーにじわじわと引き込まれていく。母にも時代にも置き去りにされた主人公の不安と恐怖を真に迫る演技で表現した池松と全てを超越した芝居を見せる田中。彼らの芝居とともに、リアルとヴァーチャルの境界線が崩れていく本作の魅力にぜひ触れてみてほしい。
文=山本弘子









