万智は物語の最初に、新宿営業所・売買仲介営業課に新しいチーフとして異動してくる。出社してきた課長・屋代大(仲村トオル)に、朝日の逆光の中で挨拶するのだが、見開かれた瞳、淀みない言葉と強い口調には威圧感さえ覚えるほどだ。課長が売りたい物件を提示した時には、オノマトペで表すなら「くわっ!」と目を見開いて「その家、私が売ります!」と言う。普段の動作はキビキビしていて、表情の変化は少なく、視線もほとんど動かさない。家を売るための営業アンドロイドのような印象さえ受ける。そんな万智の個性を、冒頭からしっかり印象付けてしまうところに、北川の演技の秀逸さがうかがえる。
さらに、その感情表現の少なさが、かえって印象的なシーンを作り出す。例えば第2話、家を売りたがっている顧客の家で火災報知器が鳴った時、表情を変えずに「火事だー」と叫ぶ姿や、第4話でのホームレスとの宴会で、無表情かつ硬い動作で合いの手を入れる姿も、違和感ありまくりでつい笑ってしまう。それも、北川が感情表現のあまりない万智に徹して演技をしているからこそ生まれるシーンであり、よりコミカルなものとして映るのだ。
■感情表現の僅かな変化に惹き込まれる北川景子の絶妙な演技
万智がハッとするような表情を見せることもある。第1話で医師の夫婦に物件を薦める時には、勝算あり、といった雰囲気でごくごく僅かな笑みを見せ、口癖のひとつである「落ちた...」と心の中で呟く時には、やり遂げたような、何かに感じ入ったような空気を漂わせる。また第4話で、結婚したくてもうまくいかないことを屋代に話し、「私はなぜだめなんでしょうか」という時には、納得のいかないような空気がにじみ出ている。普段あまり表情が変わらないだけに、そんな小さな変化にも釘付けになってしまうし、同時に万智の心の中で何が動いているのかが気になり、三軒家万智という人物と物語にグイグイ惹き込まれてしまうのだ。
難題を乗り越えて目的を達成する万智の鮮やかな手腕はもちろん、少しずつ明らかになっていく万智の過去など、物語は全話を通じて夢中になれる内容となっている。本作で北川は、第90回ザテレビジョンドラマアカデミー賞の主演女優賞を受賞し、作品としても最優秀作品賞を受賞している。北川の演技とドラマとしての面白さを、たっぷりと味わいながら観てほしい作品だ。
文=堀慎二郎






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