穏やかな夏帆の演技が共感を呼ぶ!コロナ禍にある人々を優しい視線で描いたオムニバスドラマ「息をひそめて」
俳優
(C)HJホールディングス
妃登美は外資系コンサルティング会社に勤めていたが、激務のためパニック障がいを発症し、退職。回復した後、姉とともに、今は店を閉めている祖父の食堂を訪ねたことから、物語が始まる。
食堂に向かう妃登美と姉の会話は穏やかで、妃登美自身も化粧っ気のない、ごく普通の女性といった雰囲気だ。店に入ると妃登美は、その匂いにほっとしたような表情となり、店内を見回す時は、店のあちこちから記憶を掘り起こすような、少し強いまなざしになる。
妃登美の柔らかい笑みや、姉との他愛のない会話。ごくごく普通で、静かな時間が流れていく。特別なことは何もない。だが、それがいい。誰もが過ごしたことのあるそんなシーンは、穏やかに心に染み込んでくるし、妃登美たちを見守っているような気にさえなってくる。それも、夏帆の等身大の演技に、つい共感してしまう空気感があるからなのだろう。食堂の借り手がいなければ駐車場になると聞いた時の、少し寂しさが漂う目。店を引き継ぎ、カウンターを愛おしそうに撫でる時のかすかな笑顔。セリフがなくとも心の動きが伝わってくるし、表情も、シーンと物語に絶妙にマッチしているのだ。
■穏やかだが心に残るシーンを作り出す夏帆の秀逸な演技
やがて緊急事態宣言が発令され、飲食店にとって厳しい時期が訪れる。「ますだや」も例外ではなく、ある時、店に批判的なメッセージが貼られ、妃登美も閉店を考えるようになる。そんな妃登美を支えたのが、店に通い始めた高校教師・水谷光生(斎藤工)だった。「店、閉めるんですか?」との水谷の問いかけに、妃登美が無理に笑ったり、視線を彷徨わせる様子は痛々しい。しかし、再び店を訪れた水谷との会話の後に、少しずつ心が決まっていくような空気の変化や、再び店にのれんをかける時の、大切なものとともにいるような微笑みは、心に残る。そういった夏帆の秀逸な演技が、物語をより印象深いものにしていることは間違いない。
妃登美は、水谷が主人公となる第8話にも登場する。第8話は第1話から時が経ち、コロナが収まりつつある時期の話。カウンターにいる水谷の横に座ったりするところを見ると、2人の距離も少しずつ縮まっているのだろう。
コロナ禍で失ったものもあれば、得たものもある。つらいこともあれば、笑顔になれる時もある。過酷な時期にあった人々の姿を、寄り添うような温かい視線と構成で描かれた本作。ネットでの評価も高く、「何度でも観たい」という声も聞かれる。コロナ禍でこそ生まれたドラマの数々を、夏帆ら名優の演技とともに、ぜひじっくりと楽しんでほしい。
文=堀慎二郎









