彩風咲奈、男役の集大成!雪組『ベルサイユのばら』-フェルゼン編-('24年雪組・東京・千秋楽)
俳優
待望の『ベルサイユのばら』-フェルゼン編-が、いよいよタカラヅカ・スカイ・ステージに登場する。1974年の初演から50年、10年ぶりの再演、そしてトップスター彩風咲奈の退団公演という、さまざまな意味での節目の公演だった。
小公子・小公女の歌によるプロローグに始まり、大階段を使った断頭台にマリー・アントワネットが上がっていくラストシーンまで、次から次へとおなじみの場面が押し寄せる。観客の期待に応えるサービス満点の展開だ。
その一方で、フェルゼンとアントワネットが愛の言葉を交わす場面をピンク基調の夢々しいセットの中で見せたり、パリ市民が不満を爆発させていくさまをシンプルな衣装と力強いダンスで見せたりするなど、斬新な趣向の場面も加わっている。
「ベルばら」は、上演する組のトップスターの持ち味によって主人公が変わるのが特徴だが、今回は雪組トップスターの彩風咲奈がフェルゼンを演じる「フェルゼン編」である。「ベルばら」に憧れて入団し、新人公演でもフェルゼンを演じたことがある彩風にとって、思い入れの深い作品での卒業となった。
このフェルゼンというキャラクターは、原作ではマリー・アントワネットやオスカルに比べると登場場面は少ないが、タカラヅカ版では物語の主人公らしく原作にはない場面も追加され、フェルゼンの心情の変化を描く。彩風フェルゼンはこれらの場面を丁寧に作り込み、深い愛と包容力のあるスケールの大きな男性を造形してみせた。立ち姿やマントさばきの美しさにも目を奪われずにはいられない、まさに男役の集大成といえるフェルゼンだった。
トップ娘役の夢白あやは、ひとりの女性としての想いを封印してフランス女王としての誇りを守ろうとするマリー・アントワネットの生き様を、ベルばら独特の様式的な演技の中に滲ませる。
劇画から抜け出てきたような朝美絢のオスカルは、凛々しさと繊細さのバランスが絶妙。そのオスカルを包み込むような縣千のアンドレとのコンビも似合いで、いずれ「オスカルとアンドレ編」も見てみたくなってしまう。
専科から特別出演のベテラン勢がいい仕事ぶりを見せる。アントワネットの守り役であるメルシー伯爵(汝鳥伶)がフェルゼンに帰国を迫る場面や、1幕ラスト、アントワネット救出の決意を固めたフェルゼンを潔く送り出すスウェーデン国王グスタフ3世(夏美よう)の場面には、思わず息を呑む緊迫感がある。また、タカラヅカ版では久々の登場となるジャンヌ(音彩唯)の強烈な存在感も印象に残る。
名場面満載の本編に対し、フィナーレは一転して全く新しい作りだ。「ベルばら」にはフィナーレにもいくつか、おなじみの名場面があるが、それらは今回取り入れられておらず、彩風の卒業を存分に惜別する構成となっている。とりわけ彩風がひとり大階段で歌う「宝塚我が心の故郷」は、トップスターになってからさまざまなことを経験した彩風の思いが伝わってくるようだ。
盛りだくさんな内容とスピーディな展開に圧倒されるばかり。観客の期待に応えつつも、新たな挑戦も忘れない。初演から50年を経た「ベルばら」の進化形をタカラヅカ・スカイ・ステージの映像でも堪能したい。
文=中本千晶









