旅チャンネルの「ドライブインらーめん探訪」が、7月11日(土)より、約1年半ぶりに新エピソードを放送する。同番組は、ラーメン好きな中年男の"俺"が、旧型ジムニーを相棒に、日本各地で今も営業を続けるドライブインを目指す旅番組。ナレーションを務めるのは、俳優の佐藤二朗だ。
新エピソードでは、長崎のドライブインをめぐり、ラーメンはもちろん、五島の海の幸が入ったちゃんぽんや鶏スープのちゃんぽんなど、土地ならではの一杯や料理が登場する。久しぶりに"俺"として番組に戻ってきた佐藤に、ナレーション収録の裏側、番組に感じている魅力、そして食べ物と記憶にまつわるエピソードを聞いた。
――約1年半ぶりの新エピソードとなります。久しぶりに「ドライブインらーめん探訪」のナレーションに戻ってきて、いかがでしたか?
「『ご当地ラーメン探訪』の頃から含めると、本当に長くやらせていただいています。僕は"俺"という役でナレーションをしているんですけど、最初は『こんなニッチなネタ、誰が分かるんだろう』と思っていたんですよ。ロボコンとか、ガッチャマンとか、海のトリトンとか、同世代の人たちにしか分からないようなネタが出てくる。ラーメンはものすごくメジャーなのに、ネタは我が道を行っているんです(笑)。でも、ありがたいことに番組が続いていて、古舘伊知郎さんやサンボマスターの山口さんからも『ラーメンのやつ、見ています』と声をかけていただいたことがあります。タイトルは長いから、みんな正確には言わないんですけど(笑)。そうやっていろんな方が見てくださっているのはうれしいですね」
――不安はありましたか?
「1年半ぶりということで不安があったかというと......ごめんなさい、嘘です。不安は全然なかったです(笑)。ずっと一緒に作ってきたスタッフの方たちがいますし、原稿も相変わらずニッチで面白い。1年半のブランクはまったく感じず、すぐにこの番組の世界に入ることができました」
――長く続いているシリーズだからこそ、スタッフとの関係性に変化はありますか?
「長く一緒にやっているので、共通言語のようなものは生まれていますね。例えば、すごく細かいこだわりがあるスタッフがいて、『それ、一緒じゃない?』と思うようなところまでこだわることがあるんです。でも、それも番組への愛情があるからこそなんですよね。ただ、あまりにこだわりが続くと、僕も『ちょっとこだわりすぎだよ』と言えるです。昨日今日の知り合いだったら、さすがに言えないですから。長い付き合いがあるから、遠慮なく言い合える。そういう関係性があるので、楽しんで収録できています」
――この番組は、ラーメン番組でありながら、人や場所の物語をたどる旅番組でもあります。佐藤さんが感じている「ドライブインらーめん探訪」ならではの魅力はどこにありますか?
「最初は、ドライブインでラーメンを出しているところって、そんなにあるのかと思っていたんです。でも、あるんですよね。しかも、大都会ではなく、『こんなところにドライブインがあるんだ』という場所に、それぞれ見事にドラマがあるんです。家族で経営しているお店なら家族の話があるし、地元の人たちとの関わりもあって、地元で採れた野菜を使っていたり、土地への愛情が見え隠れしたりもする。以前の『ご当地ラーメン探訪』の時には、お父さんに反抗していた息子さんが、お父さんが亡くなったあとにお母さんと一緒にお店を続けているという回があって。その時は、ナレーションをしながら少し涙ぐんでしまいました。毎回泣くような番組ではないんですけど(笑)。ラーメンの特徴、具材の特徴、お店の成り立ち、ドライブインの歴史。そこに家族や地元の人とのつながりが重なっていて、本当に毎回面白いです」
――佐藤さんご自身はロケには行かれていないですが、ナレーションを聞いていると、本当に旅をしているような感覚があります
「ロケには一度も行っていないんですけど、カメラが僕の目線になっているようなシーンもあるので、僕自身も旅をしている気分になるんです。最初の頃は映像を事前に見てから収録していたこともありましたが、最近は基本的に初見でやっています。原稿は、読めない漢字があると恥ずかしいので一瞬目を通しますけど、映像はその場で初めて見るんですよ。旅の醍醐味って、初めて行く場所に出会うことじゃないですか。だから、映像を初めて見ながら、その場で感じたことを大事にしています。現地の方との掛け合いのところは、お店の方のテンションもありますし、必ずしも一字一句台本通りにはいきません。僕は俳優としては『アドリブは一つもない』といろんなところで言って回っているんですけど(笑)、この番組に関しては、その場の感じで話すことがあります」
――ドラマや映画のお芝居と比べて、この番組のナレーションならではの面白さ、難しさはありますか?
「楽しさの種類が違うと言いますか、使うギアが違う、使う筋肉が違う感じがあります。俳優の仕事は、体も全部使って勝負するものですけど、ナレーションは声だけで旅をする。そこには、いい意味でほっと一息つけるような感覚もありますし、それがこの番組の気楽に旅をしている"俺"にもつながっているのかなと思います。もちろん難しさもありますよ。僕はディズニーやピクサーの作品などで声の仕事もやらせていただいていますが、毎回、プロの声優さんやナレーターの方々のすごさを痛感します。声だけで色を出すというのは、本当に難しい。でも、その難しさも含めて、楽しい経験としてやらせていただいています」
――番組の紹介にもあるように、食べ物は人や旅の記憶を呼び起こすものでもあります。佐藤さんにとって、食べ物の記憶と結びついている風景はありますか?
「僕は愛知県の東郷町で育ったんですけど、子供の頃、母親に『名古屋に行っちゃいかん。名古屋には不良がおるで』と言われていたんです。もちろん、そんなわけはないんですけど(笑)、田んぼの畦道を通って学校に行き帰りしていた子供だったので、名古屋はものすごく大都会で、行くのが怖かったんですよ。そんな中、ある時、父親が『名古屋に行くぞ』と連れて行ってくれて、初めて焼肉屋に入ったんです。そこで、父親がビールを飲みながら食べていたユッケを少しもらったら、『こんなにうまいものがあるのか』と思ったんですよね。その時に見た名古屋のネオンの風景は、ユッケの味と一緒にすごくよく覚えています。今でも焼肉屋に行くと、ユッケを頼めるお店では頼んでしまうんです。そして、どこで食べてもおいしいんですけど、やっぱりあの時の味を追ってしまう。おいしいかどうかとは別に、あの時、父親が初めて食べさせてくれた味に近いと満足するんです。記憶の味なんでしょうね」
――最後に、約1年半ぶりとなる新エピソードの見どころを教えてください
「今回もラーメンやちゃんぽんが全部おいしそうですし、土地ごとの違いを見るのが楽しいと思います。長崎のちゃんぽんと言っても、東京でイメージするちゃんぽんとはまた違うんですよ。生卵がのっていたり、レタスが入っていたり、はんぺんが入っていたりする。お店ごとに具材が違って、同じちゃんぽんでもそれぞれに個性があるんです。あとは、やっぱり人間ドラマですね。収録で見たご夫婦が本当に仲むつまじくて、『イチャイチャしやがって』と言いたくなるくらいだったんです(笑)。カメラの前で最初は緊張しているのに、『お二人、近いですね』と言われた瞬間に顔がほころぶ。そういう場面を見るのが好きなんですよ。地元の野菜を使っていたり、裏山の畑で採れたものを使っていたりするのも素敵だと思います。東京に人が集まりがちですけど、地方で自分たちの人生をちゃんと楽しんでいる人たちがたくさんいる。そういうことも、この番組から伝わるんじゃないかなと思います」
取材・文=川崎龍也











