元アイドル界のエースとは思えない!前田敦子が体を張った演技で与えた効果

主役から脇役までこなし、全ての出演作で存在感を放ち続ける女優・前田敦子。その持ち前の演技力の高さは、元アイドルという経歴を忘れさせるほどだ。

そんな前田が、カリスマアニメ脚本家・岡田麿里による自伝的ストーリーをドラマ化した「学校へ行けなかった私が『あの花』『ここさけ』を書くまで」で繊細な演技とコミカルな"コメディエンヌっぷり"を披露している。

同作は、"あの花"の愛称で爆発的人気を博すアニメ「あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。」や"ここさけ"と呼ばれるアニメ映画「心が叫びたがってるんだ。」で一躍人気アニメ脚本家の地位を確立した岡田の自伝的エッセイを基にしたもので、引きこもりだった岡田自身の過去をアニメ作品の映像と実写ドラマをコラージュして描いた青春物語。前田は主人公の坂田安喜子を演じる。岡田の最新作、劇場版アニメ「空の青さを知る人よ」の10月11日(金)公開を記念してファミリー劇場で10月5日(土)に放送される。

作中では、安喜子が引きこもりになったきっかけから引きこもり期間の葛藤、高校卒業を機に"外の世界"に踏み出したことで感じた新鮮さ、社会生活の難しさ、作品製作の苦悩までを描いているのだが、作品自体『引きこもり少女のサクセスストーリー』などではなく世の中のさまざまな壁にぶつかり悩みながらもがき続けて前に進む"普通の女性"の成長物語となっている。

(C)NHK

特筆すべきは、引きこもりを扱っているため描かれ方が暗くなりがちなところを、コミカルな笑いと軽妙な展開で軽やかに描くことで深刻になり過ぎていないところだ。

そんな中でも、前田の"コメディエンヌっぷり"が多大な影響を与えており、世の引きこもりに対するある種の病気のようなネガティブなイメージを、"外に出るのが怖いだけで中身は普通の人間"というイメージに変化させている。

印象的な部分を挙げると、安喜子を起こすため部屋の外から母親がしつこく掃除機をかけるシーンでは、ふとんを被って漫画を読みながら「今日はしつこいな」とボヤいてみせ、部屋着でアイスをくわえながらゲームに興じるシーンでは、ゲームがやりたいからやっているのではなく暇つぶしの1つとしてやっている"ダラダラ感"など、ぐーたらな部分に思わず吹き出してしまう。それらは女性の"女を捨てている瞬間"のオンパレードで、芝居という側面から見れば"演じる"のではなく"役になりきって"いないと表現できないナチュラルさが、前田の演技力の高さをうかがわせる部分でもある。

このコミカルさはシリアスなシーンとの対比として強い濃淡を出すことに波及し、より物語の軽妙さの一助となっているのだ。

数あるコミカルなシーンの中で、最も前田の"コメディエンヌっぷり"が発揮されているのが、"お尻丸出しシーン"であろう。

(C)NHK

同世代の女子が楽しげに会話しながら歩く姿を窓から見た安喜子は、一念発起して外出することに決めるが、自転車で走っているとスカートが後輪に巻き込まれてスカートが破れてしまう。焦っていると酒屋の店主から「おい、姉ちゃん。ケツ出てるで、ケツ!」と指摘され、「分かってます!」と怒りながら逃げるという場面。「恥ずかしさ」「デリカシーのない店主への怒り」「早くこの場を去りたいという焦り」などさまざまな感情が入り混じった表情と動きは、人気アイドルグループの元エースからは想像ができないほど滑稽で泥臭さがある。

また、安喜子の高校卒業を心配する担任教師が来訪した際、たまたま暑くてスウェットパンツを脱いだ瞬間に教師が入室してくる。教師が「(ふとんから)出てきなさい」とふとんをはぎ取ると安喜子は"お尻まる見え"状態で、安喜子、教師、母親の3人の間に気まずい空気が流れるという場面。"お尻まる見え"状態の脚の開き具合から再びふとんを被りなおす瞬間の「チックショウ!」と言わんばかりの表情は、女芸人を彷彿とさせるような"女"の捨てっぷりに清々しささえ感じられるほどだ。

暗くなりがちなテーマを明るく見せる前田の"コメディエンヌっぷり"が作品に与えている影響を堪能しながら、カリスマアニメ脚本家の"万人が共感する"苦悩や成長に触れてみてはいかがだろうか。

文=原田健

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放送情報

学校へ行けなかった私が「あの花」「ここさけ」を書くまで
放送日時:2019年10月5日(土)17:10~
チャンネル:ファミリー劇場
※放送スケジュールは変更になる場合がございます。

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