沢田研二の美しさに酔う...昭和の問題作「悪魔のようなあいつ」

1975(昭和50)年、世間を騒がせていたのは、「三億円事件」だった。この年の12月10日に同事件は時効を迎えたのだが、20世紀最大の未解決事件とも言われ、その鮮やかな手口と誰一人傷つけることなく、大金を奪い去った犯人に対しての世間の関心はヒートアップ。そして、時効を目前にした同年、事件を題材に制作されたドラマが「悪魔のようなあいつ」であった。この作品が衛星劇場で12月8日(火)より放送される。

実在の事件をモチーフとしてはいるが、ストーリーはフィクションだ。原作は女性週刊誌に連載されたコミックで、漫画の原作を手掛けたのは昭和歌謡の巨人・名作詞家の阿久悠である。

「悪魔のようなあいつ」に出演した沢田研二

(C)TBS

同作の主人公は三億円事件の犯人、高級クラブの雇われ歌手・可門良だ。演じたのは当時人気絶頂だった歌手の沢田研二。プロデュースと演出は、「時間ですよ」シリーズや「寺内貫太郎一家」などの名作を手がけたドラマ界の巨匠・久世光彦である。

久世といえばリアリティを追求するあまり、ケンカのシーンで本気で殴り合いをさせるなどの演出で知られたが、本作においてもテレビドラマとしての表現の限界に挑んだ挑戦的な演出が随所に見られた。ベッドシーンや暴力シーンのオンパレードで、人間のどす黒い欲望を冷徹なまでに描いた。沢田研二の官能的で退廃的な美しさが画面全体を包み、まるでフランス映画のような雰囲気さえ醸し出していたのだ。

(C)TBS

初回放送以降地上波では一度も再放送されなかったこともあり、「悪魔のようなあいつ」は、テレビドラマファンの間では長年にわたって"幻の作品"と呼ばれていた。まさに衝撃的な問題作だったといえる。

物語全編に漂う暴力とエロチシズムも魅力だが、病魔に侵されながら、「三億円」によって翻弄される良の苦悩を演じる沢田の独特な演技が見事だ。さらに良を取り巻く登場人物たちの一癖も二癖もある個性的な造形も視聴者をくぎ付けにする。元刑事で高級クラブのオーナー・野々村を演じる藤竜也の渋さにもしびれるが、良を三億円事件の犯人であると見抜き、あの手この手で追いつめようとする刑事の若山富三郎の重厚な演技も圧倒的だ。

ほかにも、荒木一郎、安田道代、篠ヒロコ、伊東四朗、金田竜之介、長谷直美といった魅力的な共演者たちが脇を固めているが、当時は「悠木千帆」と名乗っていた樹木希林や沢田とはザ・タイガースの同僚だった岸部一徳も「岸部修三」名義で出演している。また、元歌手役で尾崎紀世彦が出演している作品であることも歌謡曲ファンには貴重だ。

大胆なヌードシーン、血しぶきが飛ぶ暴力シーンといった強烈な映像は迫力満点。後半の二転三転するストーリーといい、衝撃的なラストシーンへと至る展開はまさに見どころ十分だ。

文=渡辺敏樹(エディターズ・キャンプ)

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放送情報

悪魔のようなあいつ
放送日時:2020年12月8日(火)20:00~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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