BSスカパー!にて放送される舞台俳優が自らの出演作品について副音声で解説をする『どっぷり副音声~ボタンひとつでステージ裏へ~』。作品の舞台裏や、出演者との秘話、ストーリーの解説などここでしか聞けない話が盛りだくさんでテレビリモコンのボタンで副音声に切り替えるだけで、あなたの大好きな舞台作品のステージ裏をのぞくことができる。
第2回の題材は"鎌塚氏シリーズ"第5弾、M&Oplaysプロデュース「鎌塚氏、舞い散る」。主演の三宅弘城と演出家の倉持裕が、副音声でステージ裏をどっぷり語る。12月13日(日)の放送に先駆け、出演した三宅と倉持にインタビューを敢行。主演役者と演出家の2人には『鎌塚氏シリーズ』とはどんな作品なのか...?
――『鎌塚氏、舞い散る』を改めて映像でご覧になってみていかがでしたか?
倉持「『鎌塚氏シリーズ』にはどれも全力を投じていますが、僕はこの第5弾が個人的に一番好きですね。完成度も5作品の中で一番高いのではないかと思います。副音声収録でもお話ししましたが、シリーズとしての積み重ねを感じました。僕自身の経験もそうですが、出演者の皆さんもレギュラーの三宅弘城さんや玉置孝匡さん、それに準レギュラーのともさかりえさん、片桐仁さん、広岡由里子さんが築き上げてきたものに、大空ゆうひさんなど初参加の方々が疎外感なく、うまくはまったなという印象があります」
三宅「僕は自分が出演した作品って恥ずかしくてあまり凝視できないんですが(笑)、それでも客観的に見て、やっぱりこのシリーズは面白いなと思いました。これまでの5作品すべてに思い入れがありますし、それぞれにいろんな挑戦が詰め込まれているので、本当にどれを見ても楽しくて。それでいて、これだけ回数を重ねても決して惰性になっていない。そこも人気の理由なのかなと感じました」
――今の演劇界で、こうしてシリーズが第5弾まで続くのも珍しい気がします。
三宅「そうですね。あまり聞かないですよね」
倉持「そもそも、やろうともしないんじゃないですか(笑)。ただ、シリーズとはいえ、どのタイミングで見始めても、誰もが楽しめる内容にしようという意識はしています」
三宅「それはすごく感じます。初見でも人間関係が分かるし、ずっと見続けてくださっている方にはより面白みがあるようにお約束ごとを入れていたり。そこはやはり倉持さんの上手いところですよね」
――もともと第1弾の時からシリーズ化するつもりだったんでしょうか?
倉持「いえ、そんな構想はなかったです。地方公演の千秋楽(島根公演)でプロデューサーと『シリーズ化できるんじゃないですか?』と話していて。その場の雑談みたいな感じで決まっていったんです(笑)。『それなら第2弾は豪華客船を舞台にしましょうか?』とか」
三宅「実際に『鎌塚氏、すくい上げる』は豪華客船でしたもんね。そうそう、島根公演は初めてスタンディングオベーションが起きるほどお客さんが湧いてくださったんです。それ以来、島根ではすべてのシリーズで公演をさせてもらっていて。しかも回数を重ねるごとにお客さんの数も増えていってるんです。もう、『鎌塚氏シリーズ』は島根とともに成長したといっても過言ではない」
倉持「それと、役者さんの中にもファンが多いというのが嬉しいですよね。第1弾の『鎌塚氏、放り投げる』を満島ひかりさんが観に来てくれて、終演後に上機嫌に見えたから、"頼んだら出てくれるんじゃないか?"とオファーしてみたら、本当に出てくださって(笑)」
三宅「二階堂ふみちゃんもそうでした。もともとこのシリーズが大好きで、観に来た日にプロデューサーに『出たい!』と直談判して、第4弾の『鎌塚氏、腹におさめる』に出てくれたんです」
倉持「そうやって、いろんな役者さんが出たいと言ってくださるんですよ。『放り投げる』を観に来た高橋一生くんが、『僕、こういうコメディをやりたいんです』と言ってくれたり。それは『鎌塚氏シリーズ』ではなく、僕が2013年に上演した『ライクドロシー』という別のコメディ舞台に繋がっていったんですけどね」
――副音声収録でもおっしゃっていましたが、第1弾の『鎌塚氏、放り投げる』は倉持さんが初めて"コメディ作品"と銘打った舞台でした。
倉持「もちろん、それまでにもコメディ作品は書いていました。ただ、チラシなどにはっきり明記したのは初めてでしたし、コメディというからには、やはり笑いがメインの作品を書こうという覚悟で挑んだ最初の作品だったんです」
三宅「2011年ですから東日本大震災の年でしたよね。僕も倉持さんと初めてお仕事をするということもありましたし、当時はまだ舞台作品を作ることに緊張感があって。面白い舞台だと確信しているものの、どこかしら"これウケるのかな"という不安がありましたね。初日なんて、客席からも緊張感が伝わってきましたし。でも、どんどんと笑いが起きて、倉持さんも僕も、"これは大丈夫だ"と自信につながっていったのを覚えています」
――第5弾までシリーズを続けてきた中で変化を感じるところはありますか?
三宅「まず、鎌塚アカシ自体が間違いなく完璧な執事ではなくなってきてますよね(笑)。もちろん見えないところではちゃんと仕事をこなしているんでしょうけど(苦笑)」
倉持「そこは毎回僕も思うところなんです。いちおう、多くの同業者が憧れる完璧な執事という設定なので、『さすが!』と思わせられるシーンも書かなきゃなというのが頭に中にあるんです。だから、新作を書く前はいつも執事や使用人に関する資料を読み返したりするんですが......ほとんど使うことはないですね(笑)」
三宅「(笑)。しっかりしているところはあるんだけど、"どんどん化けの皮が剥がれてるぞ"みたいなところもあって。すぐにカッカするとか、見境がなくなるとか。自分が起こした失敗なのに、なんとなく挽回して、自分が全部おさめたみたいな気になってたり(笑)」
倉持「たまに、痴呆なんじゃないかって思う時もありますよね(笑)。『失敗したことがないから謝り方が分からない』とか言うし」
三宅「ははははは!」
倉持「彼の中ではいろんな失敗がなかったことになってるのかぁって(笑)」
三宅「それと、第1弾の時からそうでしたけど、倉持さんが台本のト書き以外のところを稽古でどんどん足していくじゃないですか。そこで生まれた笑いがアカシの人間性にもつながっていて。そういう意味での変化というか、成長はありますよね」
――稽古の話題でいえば、倉持さんが実際にご自身で動いて説明するお芝居が抜群に面白いという噂をよく耳にします。
倉持「それもよく褒めていただきますけど、ようはズルいだけなんです。自分ができる範囲のことをやっているだけですし、みんなが一度笑ったあとに、"さぁ、これよりも面白いことをやって"といわれたら、役者さんもつらいですよね(笑)。だから、自分ではちょっと卑怯だなと思ってます。ただ、口で説明するよりも動いたほうが伝わりやすい時もありますし、僕が演じることで稽古場が盛り上がるのなら、それはそれでいいかなという思いもあるんです」
三宅「倉持さんが実際に見せてくれる演技ってすごく的確なんです。"あ、そういう方向の笑いに持っていきたいんだな"というのがすぐ分かる。言い換えると、無駄がないし、笑いだけに特化した、凝縮された演技なんですよね。だから面白い」
倉持「そうかもしれないですね。僕はピンポイントで面白いことだけを見せますけど、役者の皆さんは物語の過程やお芝居の流れの中にその笑いをうまくはめ込んでいかないといけないわけですから、それは難しいはずです。それも含めて、僕は卑怯なんです(笑)」
――『鎌塚氏、舞い散る』に話を戻すと、倉持さんは以前、「この第5弾は1stシーズンの最終回みたいなところがある」とお話しをされていました。
倉持「ええ、そのように感じていました。もともと『放り投げる』がアカシと上見ケシキ(ともさかりえ)の2人の物語で始まった作品でしたので、『舞い散る』で2人が一旦お別れをするという今作がひとつの区切りなのかなと思ったんです。ただ、ケシキがもう二度と出てこないわけではなく、これまでの5作の中にもケシキが登場しない回がありましたけど、それでもアカシがメールをしていたり、会話に出てきたりと、ずっと物語の中では存在していたように、今後もケシキが何かしらの形で登場するエピソードは作っていこうと思っています」
三宅「別に『鎌塚氏シリーズ』が終わるわけではないですもんね?」
倉持「それはないです。終わらないです。しれっと2ndシーズンが始まると思います(笑)」
三宅「よかった(笑)。僕も以前、インタビューで『目指せ、寅さん!』と言ってしまったことがありますし(笑)、いつまでも続けていきたいという気持ちがあります。実は第3弾(『鎌塚氏、振り下ろす』)が終わったあとに、"もしかしたら、これで終わっちゃうのかも......"と思ったことがあって。それで、千秋楽の打ち上げの時に、あまりにもみんなと離れるのが哀しくて、号泣しちゃったことがあるんですよ(笑)」
倉持「三宅さんの中で"終わるかもしれない"という不安があったんですか? それは知らなかったです」
三宅「というのも、シリーズものって3回が区切りみたいな感じで終わってしまうことが多いじゃないですか。しかも『振り下ろす』では、"伝説の執事"であるアカシのお父さん(鎌塚フリオ/ベンガル)まで登場しましたから。反対に、第4弾(『鎌塚氏、腹におさめる』)が終わったあとはまったくそんなネガティブな感情はなく、とても晴れ晴れしい気持ちになりました。それこそ、ずっと続けられるんじゃないかという気持ちになれて、それでつい『目指せ、寅さん!』って言っちゃったんです」
倉持「『腹におさめる』は新たにいろんな要素を取り入れたんですよね。『鎌塚氏シリーズ』といえば盆(回り舞台)を多用する演出がひとつの象徴みたいなところがありますけど、あえてそれを使わなかったり。それに初めて物語に推理要素を取り入れましたし。それらを形にしたことで、僕も可能性を感じたんです。だからこそ、第5弾は1作目と同じようなことをしているようで、新しい見せ方のできる舞台を作ることができたんです」
――では、今後やってみたい設定はありますか?
倉持「乗り物シリーズとして豪華客船はやりましたので、次は電車の設定もやってみたいですね。オリエント急行みたいな感じで、個室やブッフェを使えばいろいろできそうですし」
三宅「アカシが電車の屋根の上にのぼったりね」
倉持「宇佐スミキチ(玉置)が窓にへばりついたり(笑)。堂田夫妻(片桐、広岡)にも出てもらいたなぁ」
三宅「いいですね。全員集合も見てみたいです。オールスターとなるとスケジュール的に絶対に無理でしょうから、そうなったらもう映像でやるしかないかもしれませんが」
倉持「確かに僕も、スミキチ、堂田夫妻、ケシキ以外のこれまでのキャラクターをもう一度出してもいいかなと思ってます。それこそ第5弾の大空さんだったり。そうすると世界がさらに強固になっていくんじゃないかなと思います」
三宅「執事がたくさん登場するというのも面白いかもしれないですね」
倉持「たくさんの執事がいて、それをアカシが次々と仕切っていくようなね。いいなぁ、それはやりたい。絶対にかっこいいと思うので」
三宅「あとは、まだアカシが若くてペーペーだった頃のエピソードなんかも見てみたいです。ホントにちょっとしたシーンだけでもいいんですけどね。全然仕事ができていないアカシがすごく怒られていたり」
倉持「アカシに関しては、まだ母親が登場してませんから、そういう話を作ってみてもいいかもしれないですね」
――最後に、お2人にとってこの『鎌塚氏シリーズ』はどのような存在になっているのでしょう?
三宅「執事って年齢を重ねてもできる役なんですよね。ですから、ライフワークとはいわないまでも、ずっと演じていけたらいいなと思っています。また、そうした役に出会えたことにも感謝の気持ちでいっぱいですね」
倉持「僕も同じです。この『鎌塚氏シリーズ』は万人に支持される、本当に素敵な作品なんです。それに、僕の中で『鎌塚氏シリーズ』があるから、他の仕事では実験的であったり、尖った作品に挑戦できるという側面もあるんです。自分が作るものの中では珍しく分かりやすさと、スッキリとした気持ちで大団円を迎える作品ですので、これからもずっと書き続けていこうと思っています」
取材・文=倉田モトキ
放送情報
BSスカパー!×衛星劇場
どっぷり副音声~ボタンひとつでステージ裏へ~
第2回コメディ“鎌塚氏シリーズ”編
放送日時:2020年12月13日(日)22:00~
チャンネル:BSスカパー!
出演者:三宅弘城、倉持裕
副音声の題材演目:M&Oplaysプロデュース「鎌塚氏、舞い散る」
「鎌塚氏、放り投げる」
放送日時:2021年1月17日(日)17:45~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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