未知の世界へいざなう!宝塚歌劇団宙組・桜木みなとがオスマン帝国の皇帝を演じた『壮麗帝』

宙組公演『壮麗帝』は16世紀、オスマン帝国最盛期の皇帝スレイマンと、寵姫ヒュッレム、寵臣イブラヒムをめぐる物語である。

この作品もコロナ禍により当初の予定での上演は叶わず、8月に5日間だけ梅田芸術劇場シアター・ドラマシティでの公演が実現したものだ。それだけに、タカラヅカ・スカイ・ステージでの2月の放送を心待ちしている人も多いだろう。

オスマン帝国は現在のトルコの前身だが、中東のイスラム圏の国を舞台にした作品はこれまでの宝塚では少ない。中東らしき国を舞台にしたフィクションはいくつかあるが、この作品のように歴史上の有名人物を主人公にした作品はほとんどなく、その意味でも新たな挑戦の一作だ。

オスマン帝国の基本ルールは一言でいうと「強い者だけが生き残る」ということだ。そして、この実力主義が凝縮されているのが王位継承の仕組みである。皇帝はハレムの女性たちとの間にできるだけ多くの子どもを持つことが奨励された。

そして、王子たちのうち最も強い者が王位を継承する。即位後は他の兄弟を全て殺すのが慣例だった。これも、兄弟により領土が分割されることを防ぎ、また、即位後の反乱の禍根を断つという意味があった。『壮麗帝』もまた、この日本人には馴染みのない基本原則を前提として物語が進んでいく。

1520年、25歳で即位したスレイマン1世は46年もの間、皇帝の座にあった。このスレイマンの生涯を、宙組スターの桜木みなとが演じる。人間味あふれる芝居が印象的な桜木が、無邪気な少年期から偉大なスルタンとして君臨した老年期まで、迷い苦しみながら歳を重ねていくさまを丁寧に見せていく。

スレイマンの長きにわたるその治世のうち、前半は寵臣イブラヒムの時代、後半は寵姫ヒュッレムの時代といわれる。

イブラヒムの生涯は振れ幅が激しい。奴隷としてスレイマンに献上され近習として仕えていたのが、帝国最高の地位である大宰相にまで登り詰める。ところが、14年後にいきなり処刑されてしまうのだ。高い能力と野心、スレイマンに対する執心ともいえるほどの想いと、奴隷上がりゆえの卑屈さ...和希そらのイブラヒムからは彼が抱える複雑な想いが滲み出る。

一方、遥羽らら演じるヒュッレムが醸し出す明るく柔らかな感じは、イブラヒムとは好対照だ。スレイマンが彼女を心の拠り所として熱愛したのも納得してしまう。

この作品では、そんな2人の真逆の考え方を対比させて見せる。イブラヒムはスレイマンに「天運の主」(この言葉は歌詞にも出てくる)となって欲しいと願い、領土の拡張を押し進める。また、帝国の安泰をはかるためには慣習を守り秩序を維持することが不可欠だと説く。

ところが、ヒュッレムは「家族はお互い支え合う温かい関係であるべき」と考え、たとえ慣習であっても「兄弟殺し」はおかしいとスレイマンに進言する。一国を統べる者としてはどちらも捨てがたい道である。この間でスレイマンは揺れ動くのだ。

この他、皇帝の母としてハレムに君臨するハフサ(凛城きら)、ヒュッレムの前に立ちはだかる第一夫人マヒデヴラン(秋音光)、イブラヒムを献身的に支える妻ハティージェ(天彩峰里)、イブラヒムの出世を妬む宰相アフメト(鷹翔千空)、そして狂言回し役も務める学者マトラークチュ(悠真倫)など、一癖も二癖もあるキャラクターたちが異質な世界観を彩る。

演劇の意義の1つは観客を未知の世界にいざなうこと、そして、自分たちとは違う価値観のもとで生きている人がいるのだと教えてくれることにある。この作品もきっと、見る人に新たな扉を開いてくれるに違いない。

文=中本千晶

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放送情報

『壮麗帝』('20年宙組・ドラマシティ・千秋楽)
放送日時:2021年2月7日(日)21:00~
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります

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